池子住宅地区及び海軍補助施設

池子住宅地区及び海軍補助施設

池子住宅地区及び海軍補助施設（いけごじゅうたくちくおよびかいぐんほじょしせつ）は、神奈川県の逗子市と横浜市金沢区にまたがる広大な在日米軍の施設です。この施設はアメリカ海軍横須賀基地司令部の管理下にあり、主に米海軍関係者のための家族住宅や様々な補助施設が設置されています。現在の名称となる前は、帝国海軍時代から続く弾薬庫として使用されており、「池子弾薬庫」として知られていました。施設番号はFAC 3087が付与されています。

現況

通称「池子住宅地区」と呼ばれるこの施設は、逗子市の池子・久木両地区と横浜市金沢区六浦町に位置しています。総面積は約2.88平方キロメートルに及び、その大部分、約87.3%にあたる約2.52平方キロメートルが逗子市域に含まれています。これは逗子市全体の面積の約14.5%を占める広さです。施設の土地の約99.9%は国有地となっています。

施設内の住宅群は「池子ヒルズ（Ikego Hills）」と呼ばれ、特に高層住宅には、アスカタワー、イズモタワー、イセタワー、カマクラタワー、キョウトタワー、ナラタワー、ニッコウタワー、ミヤジマタワーといった日本の著名な地名にちなんだ名前が付けられています。全体で高層住宅が8棟（528戸）、低層住宅が60棟（326戸）あり、合計854戸の住宅が整備されています。各戸はベッドルームが3つまたは4つ備えられており、これらにはアメリカ軍の軍人や軍属、そしてその家族合わせて約3,400人が居住しています。

住宅の他にも、入居者の生活を支える様々な附属施設が完備されています。これには管理事務所、テニスコート、野球場、陸上競技場といった運動施設に加え、売店や食堂などの機能を持つ中央公共施設が含まれます。これらの施設は、日本政府が負担する経費、いわゆる「思いやり予算」によって建設され、日米地位協定に基づいてアメリカ側に提供されています。

また、施設内には在日米海軍横須賀施設本部池子支所、在日米海軍司令部統合消防隊第2消防署、在日米海軍横須賀基地憲兵司令部池子支所といった米軍の関連組織も置かれています。米海軍横須賀基地までは自動車で25分から30分程度の距離（約12km）にあります。最寄りの駅は京浜急行電鉄逗子線の神武寺駅ですが、2008年10月からは居住者専用の改札口が設置されています。

通常、関係者以外の立ち入りは許可されていませんが、年に一度開催される「池子フレンドシップデー」の際には、施設の一部が一般に開放され、地域住民との交流の場となっています。

近年では、施設の南端にあたる一部の土地（約40ヘクタール）が「返還を前提とした日米共同使用」の対象となり、2014年11月からその運用が始まりました。この共同使用地の一部を活用し、2015年2月には逗子市が管理する「池子の森自然公園」が開園しました。公園の北側には、住宅建設に先立つ発掘調査で発見された池子遺跡群からの出土品を保管・展示する「池子遺跡群資料館」（逗子市教育委員会の施設、入館無料、月曜休館）があります。この資料館は1999年に開館しており、共同使用開始以前も入館申請で利用可能でしたが、公園開園後は個人利用の場合、特別な手続きなしで見学できるようになっています。

さらに、2022年12月には、隣接する医療センターへの進入路の一部（約2,500平方メートル）について、日米合同委員会での合意を経て、2024年11月30日に国に返還され、翌12月1日には逗子市に譲与されました。逗子市は、共同使用地全体の約45万平方メートルについても、さらなる返還を求めています。

歴史

現在の池子住宅地区の歴史は、太平洋戦争中の1938年（昭和13年）に、当時の逗子町に大日本帝国海軍が設置した倉庫「軍需部池子倉庫」に始まります。この施設は後に第二海軍航空廠補給部池子工場となり、弾薬庫として重要な役割を担うようになりました。また、1942年（昭和17年）には、現在の横浜市金沢区側にあたる場所に、海軍の毒ガス弾製造工場（谷戸田注填場）も設けられています。

第二次世界大戦が終結し、日本が連合国軍の占領下に入ると、1945年（昭和20年）9月1日にこの地域一帯がアメリカ陸軍に接収され、引き続き弾薬庫として利用されることになりました。しかし、1947年（昭和22年）11月17日には、弾薬庫内で大規模な爆発事故が発生し、日本人6人が死傷、周辺の山林約100ヘクタールが焼失する被害が出ました。さらに、周辺住民約5,000人に避難命令が出され、約1,000人が実際に避難するという大きな影響を地域にもたらしました。

1952年（昭和27年）4月28日に日本国との平和条約と旧日米安全保障条約が発効すると、池子弾薬庫は連合国軍の接収施設から、安保条約に基づくアメリカ合衆国への提供施設へと位置づけが変更されましたが、引き続きアメリカ陸軍の管理下に置かれました。その後、1970年（昭和45年）7月には、施設の管理が陸軍から海軍へと移管されました。

ベトナム戦争が終結するまでは弾薬の貯蔵に使用されていた池子弾薬庫ですが、1978年（昭和53年）7月には事実上の閉鎖状態となりました。それ以前から、神奈川県、逗子市、横浜市の各自治体は、関係省庁やアメリカ大使館に対し、施設の返還を強く働きかけていました。1972年（昭和47年）には一部土地が返還され「第一運動公園」となりましたが、翌年には再び弾薬が搬入されるという事態も発生しました。弾薬庫が閉鎖状態となった後も全面返還には至らず、米国側は日本政府に対し、弾薬庫跡地への米軍家族向け住宅の建設を強く要望するようになりました。

1983年（昭和58年）7月、防衛施設庁（当時）は池子弾薬庫跡地への住宅建設計画を正式に表明しました。これ以降、およそ10年間、住宅建設の是非は逗子市において市全体を二分するほどの大問題へと発展しました。この期間には、建設の条件付き受け入れを表明した三島虎好市長が辞職（1984年10月）したり、受け入れ容認派が多数を占めていた市議会のリコール解散、そして反対派の富野暉一郎市長に対するリコール住民投票（1986年3月）といった激しい政治的な混乱が続きました。市長のリコールは不成立でしたが、市議会は解散しました。その後も市議会と対立した富野市長が辞職（1987年8月）するなど、状況は混迷を極めました。

このような地元自治体の混乱や反対の声がある中でも、日本政府は住宅建設のための準備を着々と進めました。反対派の市長は仮設調整池工事の続行禁止を求める訴訟（1989年12月）を起こして対抗しましたが、工事は止まらず、1993年（平成5年）5月にはついに住宅本体の建設工事が着工されました。この訴訟は第一審、第二審ともに逗子市が敗訴し、最高裁判所での上告棄却によって同年9月に終結しました。当初反対の立場を取っていた澤光代市長と当時反対派が多数を占めていた市議会は、政府との和解交渉へと方針を転換し、1994年（平成6年）11月、防衛施設庁長官、神奈川県知事、逗子市長の間で「三者合意」が成立しました。これにより、逗子市は住宅建設を正式に受け入れることとなりました。澤市長はこの合意成立の翌日に辞職しました。

住宅の一部は1996年（平成8年）4月2日に落成記念式典が行われ、全体854戸全ての完成は1998年（平成10年）3月31日でした。この建設のために日本政府が費やした金額は664億円に上ります。また、完成に合わせて、池子住宅地区の逗子市側部分には、居住する米軍関係者の子弟のためにプレハブの小学校が設置されました。現在、日本政府はこのプレハブ校舎に代わる本格的な校舎の建設を進める計画です。

2003年（平成15年）には、池子住宅地区の横浜市側にさらに住宅を追加建設する計画が持ち上がりました。横浜市は計画の修正を条件に受け入れを表明しましたが、逗子市は2004年（平成16年）9月、この追加建設は1994年の三者合意に反するとして国を提訴しました。この訴訟は2007年（平成19年）に逗子市が上告を断念し、終結しました。現在、横浜市側での追加住宅建設に向けた準備が進められており、この住宅が完成すれば、横浜市の根岸住宅地区（2015年12月に居住者の退去が完了）が日本側に返還される見込みです。

近年では、前述の通り、隣接する医療センターへの進入路の一部が逗子市に返還されるなど、段階的な土地の返還に向けた動きも進んでいます。

関連項目

米軍住宅
本牧 - かつて在日米海軍の住宅街「ベイサイド・コート」があり「アメリカ村」とも呼ばれました。
根岸住宅地区 - 在日米海軍将官の住宅専用施設で、返還合意に基づき、居住者の多くが当施設に移住したとされています。
横浜市内のその他の米軍関連施設
深谷通信所（返還済み）
上瀬谷通信施設（返還済み）
鶴見貯油施設
横浜ノース・ドック

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