池宮彰一郎

池宮彰一郎（いけみや しょういちろう、1923年5月16日 - 2007年5月6日）は、日本の脚本家、小説家です。本名は池上金男（いけがみ かねお）で、脚本家時代には数々の映画やテレビドラマの制作に携わりました。1992年に小説『四十七人の刺客』を発表して以降、池宮彰一郎のペンネームで歴史小説を執筆しましたが、2002年に司馬遼太郎作品との類似問題が指摘され、活動をほぼ停止しました。

生い立ちと戦争体験

東京府に生まれた池宮は、静岡県沼津市で育ち、静岡県立沼津商業学校（現在の静岡県立沼津商業高等学校）を卒業しました。第二次世界大戦中は満州で陸軍に徴兵され、過酷な戦争体験をしています。兵舎に放火したことで南方へ送られ、ペリリュー島逆上陸作戦に参加。部隊3000名のうち、生き残ったのはわずか20～30名という状況でした。その後、台湾への引き上げ時にも輸送船が撃沈され、再び生還率1%以下という絶望的な状況から奇跡的に生還しました。

脚本家としての成功

復員後、東京地方裁判所の書記官を務めた後、映画脚本家の道に進みます。三村伸太郎に師事し、本名の池上金男名義で『十三人の刺客』や『大殺陣』などの脚本を執筆。京都市民映画脚本賞を受賞するなど、脚本家として成功を収めました。

小説家への転身と成功

1992年、69歳という遅咲きで池宮彰一郎として小説家デビューを果たします。デビュー作である『四十七人の刺客』で新田次郎文学賞を受賞。1999年には『島津奔る』で柴田錬三郎賞を受賞しました。脚本家としての経験を生かし、特に戦争や戦闘の場面を、軽妙かつ迫力ある文章で描写し、多くの読者を魅了しました。歴史考証にも独自の視点を持ち、従来の歴史小説にとらわれない、新たな歴史小説の世界を切り開きました。

司馬遼太郎への敬意と盗作疑惑

池宮は、司馬遼太郎を深く尊敬しており、「日本の小説は私小説が主体だったが、司馬遼太郎の歴史小説は大河的であり、日本の小説の流れを変えた作家だった」と述べています。また、歴史小説について「歴史考証にとらわれすぎてはならないし、逆に歴史を全く無視してもならない」と語り、独自の歴史考証によって新感覚の歴史小説を生み出しました。しかし、晩年、著作の一部が他の作家の作品と類似しているとの指摘を受け、盗作疑惑が浮上しました。

特に、『遁げろ家康』は司馬遼太郎の『覇王の家』との類似点が指摘され、2002年12月25日に絶版・回収となりました。また、『島津奔る』も司馬の『関ヶ原』との類似問題で、2003年4月3日に絶版・回収となりました。池宮は、「家内の病気や引っ越し、連載が重なり混乱し、資料と先輩作家たちの作品が混ざってしまった」と釈明しましたが、この事件は作家生命に大きな打撃を与えました。結果的に、司馬遼太郎財団から著作権侵害の訴訟は起こされませんでしたが、この事件以降、新作が出版されることはほとんどありませんでした。

その後と晩年

盗作疑惑以降も、『密約―西郷と大久保』を雑誌『野性時代』に連載しましたが、第一部で未完となりました。2007年5月6日、肺癌のため自宅で死去。享年83歳でした。

受賞歴

脚本家・池上金男としての受賞
1963年：京都市民映画祭脚本賞
1992年：シナリオ功労賞（日本シナリオ作家協会）
1995年：『四十七人の刺客』で第18回日本アカデミー賞優秀脚本賞
小説家・池宮彰一郎としての受賞
1993年：『四十七人の刺客』で第12回新田次郎文学賞
1999年：『島津奔る』で第12回柴田錬三郎賞

主要作品

映画脚本（池上金男名義）
『十七人の忍者』（1963年、東映）
『十三人の刺客』（1963年、東映）
『大殺陣』（1964年、東映）
『栄光への挑戦』（1966年）
『嵐を呼ぶ男』（1966年、日活）
『紅の流れ星』（1967年、日活）
『わが命の唄 艶歌』（1968年）
『喜劇 “夫”売ります!!』（1969年、東映）
『剣と花』 (1972年、松竹)
『影狩り』（1972年、東宝）
『影狩り ほえろ大砲』 (1972年、東宝)
『雲霧仁左衛門』（1978年、松竹）
『闇の狩人』（1979年、松竹）- 北沢直人名義で執筆
『四十七人の刺客』（1994年、東宝）- 池宮彰一郎名義で執筆した小説の映画化作品
テレビドラマ脚本（池上金男名義）
『北斗の人』（1967年、NET）
『マコ!愛してるゥ』（1967年、TBS）
『江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎』（1970年、東京12チャンネル）
『大岡越前』(TBS)
『必殺仕掛人』（1972年、朝日放送）
『水滸伝』（1973年、日本テレビ）※高岩肇、宮川一郎らと共同執筆
『右門捕物帖』（1974年、NET・東映）
第5話「通り魔」（1974年）
第26話「人質」（1974年）
第49話「秘密」（1975年）※川口桂と共同執筆
『戦国ロック はぐれ牙』（1973年、フジテレビ）
『大空港』（1978年、フジテレビ）
『風雲 柳生武芸帳』（1985年、テレビ東京・東映）
『十三人の刺客』（1990年、フジテレビ）
小説
池上金男名義
『限りなき一つの道』（1979年、祥伝社）
『幻の関東軍解体計画』（1982年、祥伝社）→後に池宮彰一郎名義で『事変　リットン報告書ヲ奪取セヨ』として加筆出版
『鉄血の島　沖縄に燃えるいのち…』（1985年、東洋堂企画出版社）
池宮彰一郎名義
『四十七人の刺客』（1992年、新潮社）
『四十七人目の浪士』（1994年、新潮社）- 「最後の忠臣蔵」に改題再刊
『高杉晋作』（1994年、講談社）
『風塵』（1995年、講談社）- 短篇集
『その日の吉良上野介』（1996年、新潮社）- 短篇集
『けだもの』（1996年、文藝春秋）- 短篇集、改題『受城異聞記』
『島津奔る』（1998年、新潮社）※絶版・回収
『遁げろ家康』（1999年、朝日新聞社）※絶版・回収
『本能寺』（2000年、毎日新聞社）
『天下騒乱 鍵屋ノ辻』（2000年、角川書店）
「辛亥革命」（1998年～2001年、未完）
「武辺」（2001年）
「本多平八郎忠勝」（2002年～2003年）※未刊行
『平家』（2003年、角川書店）
「密約 西郷と大久保」（2004年～2005年、未完）
その他の著書
『池宮彰一郎が語る忠臣蔵のすべて』（ＰＨＰ研究所、1994年）→後に再構成の上『忠臣蔵夜咄』に改題再刊
『忠臣蔵夜咄』（角川書店　2002年、角川文庫、2006年）
『義、我を美しく』（新潮社、1997年、新潮文庫、2000年）
『池宮彰一郎　戦国歴史舞台を歩く』（毎日新聞社、2001年）
『大将論』（朝日新聞社、2002年）

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