池田一夫

池田一夫：映画界を彩った異才の生涯

池田一夫（1906年前後 - 1971年3月12日）は、映画プロデューサー、映画会社経営者、そして元映画雑誌編集者として、昭和期の日本映画界に足跡を残した人物です。彼の生涯は、激動の時代とともに、映画界の多様な側面を映し出しています。

早稲田大学中退から映画雑誌編集者へ

1920年代後半、池田は早稲田大学を中途退学し、1928年に東亜キネマの雑誌『東亜映画』編集部に入ります。そこでは岡部龍、田中三郎、古川緑波といった文化人たちと交流を深めました。古川緑波との親交は深く、古川の日記にもその名がしばしば登場します。

1930年代には、『キネマ旬報』で軽演劇に関する連載を持つなど、文筆家としても活動しました。新宿ムーランルージュや浅草の軽演劇といった当時の大衆文化に対する造詣の深さが伺えます。

コロムビア映画から東宝、そして松竹へ

1936年、池田はコロムビア映画に入社し、配給部門から製作部門へとキャリアを移します。その後、東京発声映画製作所、東宝映画、松竹大船撮影所といった大手映画会社を渡り歩き、多様なジャンルの映画製作に携わりました。

戦時中には、情報局が選定した国民映画である『決戦』や『陸軍』といった作品の企画にも関わっています。これらの作品は、戦時下の社会情勢を反映したものであり、池田のキャリアの中でも特筆すべき点と言えるでしょう。

戦後の独立とピンク映画への挑戦

戦後、池田は新映画に所属した後、1953年に独立して池田プロダクション（のちの協立映画）を設立します。そして、成人映画『肉体の市場』を製作・配給し、「ピンク映画第1号」として映画史にその名を刻みました。

この作品は、当時の映画倫理管理委員会の審査を通過したものの、警視庁によって摘発を受け、一部削除を余儀なくされました。しかし、結果的に大ヒットを記録し、その後の大蔵映画の経営を支えるほどの収益をもたらしたと言われています。もっとも、映画史研究家の間では、協立映画は大蔵映画のダミー会社であり、池田は名義上の経営者であったという説も唱えられています。

その後も、池田は成人映画の製作を続けましたが、数多くの作品を手がけることはなく、1969年以降は作品の記録が見られなくなります。

多様な顔を持つ映画人、池田一夫

池田一夫は、編集者、プロデューサー、経営者として、多岐にわたる活動を通じて日本映画界に貢献しました。彼の足跡は、戦前・戦中・戦後という激動の時代を背景に、映画というメディアが社会とどのように関わってきたのかを考える上で、貴重な手がかりを与えてくれます。

彼のフィルモグラフィーには、戦時下のプロパガンダ映画から、戦後の大衆娯楽映画、そして成人映画まで、多様なジャンルの作品が並んでいます。これらの作品は、池田の映画に対する多角的な視点と、時代のニーズに応えようとする柔軟な姿勢を物語っていると言えるでしょう。

1971年3月12日、池田一夫は64歳でその生涯を閉じました。彼の名は、今日では忘れ去られつつありますが、その足跡は日本映画史の中に確かに刻まれています。

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