池田武邦

池田 武邦（いけだ たけくに）氏は、1924年1月14日に静岡県静岡市で生まれ、2022年5月15日に98歳でその生涯を終えた日本の建築家であり、実業家です。日本設計の名誉会長やハウステンボスの会長など、多くの要職を務めました。

池田氏の人生は、激動の時代における戦争体験と、それに根差した建築家としての活動が深く結びついています。1943年に海軍兵学校を卒業した氏は、太平洋戦争中に海軍軍人として厳しい戦場に身を置きました。特に、軽巡洋艦「矢矧」に乗り組み、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦といった激戦に参加。そして、1945年4月に行われた戦艦大和を主軸とする沖縄特攻作戦（天一号作戦）にも加わります。この作戦中に「矢矧」はアメリカ軍の猛烈な航空攻撃により被弾し沈没。氏自身も直撃弾の爆風で顔に火傷を負いながら、原油に覆われた海上を約5時間も漂流するという極限状態を経験しました。この死線をさまよう中で、氏はかつて親族が設計した、風通しの良い実家の畳の上で安らぎたいと強く願ったといいます。この壮絶な体験と、九死に一生を得て感じた生への渇望が、戦後に建築家を志し、特に快適な空間づくりや自然との関わりを重視する建築思想の揺るぎない原点となりました。

戦後、池田氏は東京大学第一工学部建築学科で建築を学び、1949年に卒業。山下寿郎建築設計事務所に入所し、建築家としての第一歩を踏み出します。ここでは、日本の超高層建築の先駆けとなる霞が関ビルディングの計画にも携わりました。1967年には、日本設計事務所（現在の日本設計）の設立に参加し取締役に就任。同社を日本の主要な組織系建築設計事務所の一つへと発展させる牽引役を果たします。日本設計時代には、京王プラザホテルや新宿三井ビルディングといった初期の超高層ビルをはじめ、沖縄熱帯ドリームセンター、徳島県庁舎、新日鉱ビルディング、東京ベイヒルトン・インターナショナル、筑波研究学園都市の施設、東京都立大学新キャンパス、そしてアクロス福岡など、ホテル、オフィス、文化施設、大規模開発といった多岐にわたるプロジェクトを手がけました。

氏は日本設計において、1976年から代表取締役社長、1993年からは代表取締役会長を歴任し、同社の成長を牽引しました。1997年には名誉会長に就任しています。

特に、1992年に開業したテーマパーク、ハウステンボスの構想段階から、環境デザイナーの涌井雅之氏と共に深く関与し、そのコンセプトづくりに尽力しました。単なるアミューズメント施設ではなく、「環境未来都市」を目指すハウステンボスの思想は、氏が追求してきた自然との共生というテーマの集大成の一つと言えます。その後、2000年からは代表取締役会長としてハウステンボスの経営にも参画しました。

また、建築実務に加え、長崎総合科学大学の教授として教育活動にも従事し、後進の指導にもあたりました。著書としては、『大地に建つ』、『ハウステンボス・エコシティへの挑戦』、『人と自然。共生の作法』などがあり、その建築思想や環境問題への深い洞察が示されています。

池田氏の建築家人生は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本の近代化の象徴である超高層建築の発展を牽引する一方で、人間的なスケールや自然との調和を重視するという、一見相反する二つの要素を統合しようとする稀有な試みでした。戦争体験から生まれた「安らぎ」への希求が、彼の建築活動の根底には常に息づいていました。2022年、老衰のため98歳で静かに逝去。

氏の残した数々の建築物や、その思想は、現代の建築や都市計画においても多くの示唆を与え続けています。

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