沖縄ゼネスト警察官殺害事件

沖縄ゼネスト警察官殺害事件：1971年の沖縄を揺るがせた悲劇

1971年11月10日、沖縄返還協定批准を目前に控えた沖縄で、大規模なゼネストが発生しました。このゼネストは、返還協定への反対を訴える14万6500人を超える労働者たちが参加した、沖縄全土を麻痺させるほどの規模でした。那覇市では大規模な県民大会も開催され、7万人がデモ行進に参加するなど、沖縄社会全体が大きく揺れ動いた日となりました。

この大規模な抗議活動の中で、悲しい事件が発生しました。浦添市勢理客交差点付近で警備にあたっていた警察官が、過激派グループによる暴力行為に巻き込まれ、死亡するという痛ましい出来事でした。

事件の背景：高まる反米感情と過激化する運動

沖縄では、米軍基地の存在や不平等な地位に抗議する運動が長年にわたり続いていました。1969年には、沖縄で初めて火炎瓶攻撃が発生するなど、運動は次第に過激化していきました。一方、琉球警察は、本土から機動隊装備を導入するなど、警備体制の強化を図っていました。こうした状況が、11月10日の悲劇の背景として存在していました。

事件の概要：混乱と暴力の渦中

ゼネスト当日、多くのデモ参加者は平和的に抗議活動を行っていましたが、一部の過激派は、ヘルメットや覆面を着用し、火炎瓶や棍棒などを持ち、暴力的な行動に出ました。彼らは、デモ隊列の中で、派出所や米軍施設に火炎瓶を投げ込むなど、多くの施設に被害を与えました。

警察官が殺害された現場は、ゼネスト参加者や見物人で混雑していた勢理客交差点でした。過激派が火炎瓶を投げつけ、警察官が襲撃された際に、複数の過激派が警察官を棍棒などで殴打し、さらに火炎瓶を投げつけた結果、警察官は全身に火傷を負い、病院に搬送されましたが、脳挫傷とクモ膜下出血により死亡しました。

この事件を受けて、警察は放水や催涙弾を使用し、デモ隊を解散させました。事件後、祖国復帰協議会は、デモ参加者への警察の暴力行為を非難し、集団訴訟の準備を進めると発表しましたが、訴訟には至りませんでした。

事件後の裁判と波紋

警察官殺害事件では、複数の容疑者が逮捕されました。その中で、染色家の松永優氏が殺人罪で起訴されました。弁護側は、松永氏が殺人ではなく、火に包まれた警察官を救助しようとしていたと主張しました。一審では傷害致死罪で有罪判決を受けましたが、二審では弁護側の主張が認められ、無罪判決が確定しました。

一方、別の容疑者であるM氏については、控訴審で懲役4～6年の不定期刑が確定し、服役しました。これらの裁判の判決は、社会に大きな衝撃を与え、事件に対する様々な解釈や議論を巻き起こしました。

事件の意義と歴史的背景

沖縄ゼネスト警察官殺害事件は、沖縄返還という歴史的転換期における、複雑で対立的な社会状況を象徴する出来事でした。この事件は、反米運動の高まり、過激派の活動、警察の対応など、様々な要素が絡み合った結果として発生しました。

この事件は、沖縄の歴史の中で、大きな悲劇として記憶されており、沖縄の人々の記憶に深く刻まれています。同時に、沖縄の社会運動や、警察と市民との関係、そして日本の社会構造についても、深く考えるきっかけを与えてくれる出来事と言えるでしょう。

参考文献

池宮城晃『写真集 沖縄返還 1972年前後』池宮商会 1998年
松永闘争を支援する市民会議他『冬の砦』たいまつ社 1977年
松永国賠を闘う会『冤罪と国家賠償―沖縄ゼネスト松永国賠裁判』1994年
沖縄県警察史編さん委員会編『沖縄県警察史 第3巻（昭和後編）』2002年
* 事件犯罪研究会編『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』2002年

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