沢山保羅

沢山 保羅（さわやま ぽうろ）

嘉永5年3月22日（1852年5月10日）に周防国吉敷郡吉敷村（現在の山口県山口市）で、長州藩の下級武士・沢山源之丞の子として生まれた。幼名は馬之進。同郷には内務大臣を務めた内海忠勝がいた。

少年期と武士としての教育

1858年、6歳で藩校である憲章館に入学し、四書五経などの漢学、書道、武術、礼式などを学ぶ。同窓には後の服部一三や成瀬仁蔵がいた。1867年まで憲章館で修学した。

良城隊への参加

長州藩が薩摩藩と薩長同盟を結び、藩内に新しい軍団を組織する中で、吉敷でも1866年に洋式部隊「良城隊」が編成された。14歳だった沢山は父と共にこの隊に入隊する。慶応2年（1866年）の第二次長州征伐では、良城隊は芸州口への出動を命じられる。沢山の所属する第五小隊は内海忠勝を指令とし、沢山は鼓手として従軍。激戦を経験し、長州軍の勝利を見届けた。

陽明学の探求

明治元年（1868年）、16歳になった沢山は陽明学を学ぶため、三原の吉村菱山、次いで今治の渡辺渉に師事した。

神戸での転機

1870年、洋学習得を目指し神戸へ出る。そこでアメリカン・ボードの宣教師ダニエル・クロスビー・グリーンの自宅に寄宿し、英語を学んだ。グリーンの自宅で行われる礼拝や聖書研究会に参加するうちにキリスト教信仰に惹かれ始める。同郷の友人服部一三や名和道一のアメリカ留学に刺激され、沢山自身も1871年頃にアメリカ留学を決意。グリーンは自身の故郷であるイリノイ州の兄の家に沢山を寄寓させ、働きながら学べるよう手配した。

アメリカ留学

明治5年（1872年）5月、故郷で片道旅費を工面し渡米。渡米に際しては、藩の命によりキリスト教に改宗しないという誓約書を父に提出した。イリノイ州エバンストンに到着後、サムエル・グリーン宅に身を寄せ、同年秋からノースウェスタン大学の予科で聴講生として学んだ。渡米後4ヶ月で、エバンストン第一組合教会にてパッカード牧師から洗礼を受けた。翌年からはパブリック・スクールに通学。この頃、ボーテル家に移り住んだ。留学中にはシカゴの病院で手術を受けたり、友人の名和道一をボストンで結核で失う悲劇も経験した。1874年にはワシントン日本公使館の矢野次郎に公費留学や公使館勤務の斡旋を求めたが叶わなかった。

ボーテル家を訪れた宣教師H・H・レビッドとの出会いが大きな転機となる。レビッドの熱心な勧めにより、沢山は日本伝道への献身を決意。パッカード牧師に師事して聖書研究に励み、特に使徒パウロの働きと神学に深く感銘を受けた。この経験を通じて新生を確信し、名を馬之進からパウロにちなんだ「保羅」に改めた。その後、日本宣教のためにシカゴの神学校で学んだ。グリーン宣教師からの要請で帰国を一年遅らせた後、旅費を工面して1876年6月にサンフランシスコを出港した。

日本での宣教活動

1876年8月初旬に帰国。横浜でグリーン宣教師の出迎えを受け、一時滞在。その後神戸、故郷の山口を経て大阪に戻り、大阪府参事の内海忠勝やH・H・レビッドと面会した。内海は沢山の能力を評価し、明治政府の役人になるよう誘ったが、レビッドの説得により沢山の初志を貫くことを選び、内海の申し出を断った。

1876年7月に大阪に開設された松村診療所で、アメリカン・ボードの宣教医アーサー・アダムズの通訳として働きながら、来院者への伝道や安息日学校の指導を行った。

浪花公会の設立と牧師就任

1876年12月、大阪で開かれたアメリカン・ボード宣教師の特別会議で、沢山に按手礼を施し、牧師として新しい教会に招聘することが承認された。これは沢山が最初から正式な牧師として任職されることを意味し、同時にボードが彼の副職を支援することも決定された。1877年1月20日、松村診療所を仮会堂として、12名の会員により浪花公会（現在の浪花教会）が設立される。会衆政治の原則に基づき、日本で最初の按手礼を含む公会設立式が執り行われ、沢山は牧師に就任。同日、綱島佳吉らへの洗礼式を執り行った。自らも診療所で働きながら、教会の費用を自給自足で運営することを目指した。この教会形成の取り組みは、後の日本組合基督教会の礎となった。

教育への貢献と家族への影響

伝道活動と並行して女子教育にも情熱を注ぎ、明治11年（1878年）には成瀬仁蔵と共に梅花女学校（現在の学校法人梅花学園）を設立した。学校運営を成瀬に託し、同年4月には梅花女学校で田島たかと結婚式を挙げた。

1879年10月21日、父源之丞が死去。父は臨終の床で信仰を告白し、沢山保羅から洗礼を受けた。父の死に立ち会った母いわと弟雄之助もキリスト教信仰を持つようになった。沢山は母を大阪に引き取り、弟雄之助を同志社に入学させた。

伝道地の拡大

1879年からは岸和田地方での伝道にも取り組んだ。これは旧藩主岡部長職の依頼によるもので、松尾敬吾を定住伝道者として派遣。1885年9月には岸和田教会が設立された。また、1878年2月の天満地区への福音宣教活動を機に、1880年には沢山が兼任牧師を務める形で天満に教会が設立された。

病状の悪化

1881年1月には病床に伏し、浪花教会の牧師を辞任せざるを得なくなった。同年10月には次女ちかが誕生したが、12月には夭折。さらに11月には母いわも死去するなど、不幸が続いた。

リバイバル体験

沢山の妻たかも結核を患っていたが、1882年6月12日に夫保羅の強い信仰の言葉に触れ、回心した。たかの回心は浪花教会の会員たちにも信仰の厳しさを自覚させ、多くの回心者が生まれた。沢山は病を押して連日、説教会、祈祷会、尋問会を開き宣教活動を精力的に行った結果、浪花教会にリバイバルが発生。この信仰復興は成瀬仁蔵が伝道していた郡山にも波及した。1883年から1884年にかけては比較的健康に恵まれ、伝道活動が活発化した。しかし1883年5月30日、妻たかが肺結核のため22歳で逝去。翌日の葬儀では成瀬仁蔵がたかの回心物語を朗読した。

1883年5月には梅花女学校の校長に就任し、クリスチャンスクールとしての存続に尽力した。同年夏には有馬で静養中、約10km離れた三田教会に招かれて説教を行った。この説教を聞いた沢茂吉の悔い改めから、三田教会にもリバイバルが起きた。各地で説教を行い、京都での説教会には後のリバイバリスト堀貞一が聴衆として参加していた。1884年7月にはO・H・ギューリックの要請で新潟に赴き、パーム病院に入院しながら新潟伝道にも携わったが、9月に大阪に戻ると再び病床についた。1886年には自身の代わりに成瀬仁蔵を新潟に送っている。

晩年と逝去

1886年末から1887年にかけては転地療養のため和歌山市で過ごしたが、1887年に大阪へ戻り聖バルナバ病院に入院。1887年3月27日、肺結核のため34歳の若さで死去した。

葬儀

1887年3月29日、YMCA会館で葬儀が執り行われ、1500名もの人々が参列した。D・C・グリーンは弔辞で沢山を「成さんと欲すれば必ず成す」精神の人と評し、新島襄は彼を「日本のジョージ・ミュラー」と称賛した。亡骸は葬送行進の後、岩崎墓地に葬られた。

参考文献

笠井秋生、佐野安仁、茂義樹『沢山保羅』日本基督教団出版局、1977年
『日本キリスト教歴史大事典』教文館、1988年
* 学校法人梅花学園公式サイト「創立者の軌跡」

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