河田嗣郎

河田嗣郎：自由主義経済学者と大阪商科大学の礎

河田嗣郎(1883-1942)は、日本の近代経済学に大きな足跡を残した経済学者です。京都帝国大学経済学部教授を経て、大阪商科大学(現・大阪市立大学)の初代学長に就任し、同大学の礎を築いた人物としても知られています。山口県出身で、旧制山口中学、旧制山口高校を経て京都帝国大学法科大学を卒業。卒業時には「恩賜の銀時計」を授与されるなど、早くからその才能を認められていました。

卒業後、国民新聞に入社するもすぐに京都帝国大学に戻り、講師、助[[教授]]を経て教授に昇進。欧米留学を経て、帰国後は京都帝国大学経済学部(当時、法科大学の一部)の独立に尽力し、教授として社会政策学や農政学などを担当、学部長も務めました。同郷で旧制中学・高校、大学と河田氏と共に学び、後に同僚となる河上肇氏とは家族ぐるみの親交を深めたと伝えられています。また、政府委員として、米穀統制調査委員や文官高等試験委員なども歴任しました。

1928年、關一大阪市長の招聘を受け、大阪商科大学初代学長に就任。大阪市経済研究所長を兼任し、14年にわたって学長職を務めました。1933年に母校である京都帝国大学で発生した滝川事件では、処分に反対する法学部教官が大学を辞任する中、河田氏は辞任した末川博氏や恒藤恭氏らを大阪商科大学に迎え入れました。このことが、戦時下においても大阪商科大学に自由主義的な学風が維持された一因となったと考えられています。しかし、一方で学生に人気のあった左派教員の立野保男講師を免職に追い込んだことなどから、厳しい批判も浴びました。

河田氏の研究分野は多岐に渡り、家族制度研究から始まり、婦人問題、農業経済、食糧問題、経済原論など、広範な社会問題に関心を持ちました。主要な研究分野は農業問題と家族制度研究に大別されます。社会政策学会にも参加し、個人人格の尊重と社会・経済生活上の平等な独立を社会問題解決の根幹に置く、やや左派的な立場を取ったとされています。分析手法は新古典派[[経済学]]に基づいていましたが、自由主義的な立場を生涯貫いたと評されています。

政府委員としての活動と並行して、積極的に社会的発言を行い、1910年には著書『婦人問題』が家族制度を破壊する恐れがあるとして文部省から発禁処分を受けるという出来事もありました。社会主義に対しても柔軟な立場を取り、評論集『何処へ往く』では集権的集産主義を提唱するなど、その思想は多様性に富んでいます。晩年の著作『国防経済概論』においても戦時政策に対して「経済の自己規律性」を重視するなど、リベラルな姿勢を貫きました。

河田嗣郎の孫には、関西大学学長を務めた河田悌一氏、そして著名な政治学者であるフランシス・フクヤマ氏が含まれます。

数多くの著作を残しており、その内容は農業経済、家族制度、社会問題、経済理論など多岐に渡っています。『家族制度ノ発達』、『資本主義的精神』、『婦人問題』、『土地経済論』など、多くの書籍が日本の経済学、社会学の発展に貢献しました。これらの著作は、現在でも重要な研究資料として活用されています。

河田嗣郎は、学問における自由主義的立場と、社会問題への深い関心を持ち合わせた、稀有な経済学者でした。その功績は、大阪商科大学の設立のみならず、日本の経済学、社会政策、そして高等教育の発展に多大な影響を与え続けています。彼の生涯と業績は、現代社会を考える上で、依然として重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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