油ヶ淵

愛知県唯一の天然湖：油ヶ淵

油ヶ淵（あぶらがふち）は、愛知県碧南市と安城市の境に位置する、県内唯一の天然湖沼です。二級河川にも指定されており、周囲6.3km、面積0.64km²、平均水深3mの汽水湖で、海水と淡水が混ざり合う独特の環境を持っています。

由来と伝説

油ヶ淵という名前の由来は、古くから伝わる伝説にまつわっています。かつて内海であったこの地で、漁師の息子の安全を祈る母親のために、淵の主である龍が娘の姿に化け、油を買いに来たという、美しい物語が語り継がれています。この伝説は、碧南市油渕町という地名にも息づいています。

地理と周辺環境

油ヶ淵には、長田川、半場川、朝鮮川、稗田川といった複数の河川が流れ込み、高浜川および新川を通じて衣浦湾へと流れ出ています。湖畔には、日本モーターボート選手会常設訓練所や勤労青少年水上スポーツセンターといった施設のほか、油ヶ淵遊園地（花しょうぶ園）などがあり、レクリエーションの拠点として賑わっています。

歴史：治水と変遷

現在の油ヶ淵は、かつては「北浦」と呼ばれた入り江の一部でした。江戸時代、1605年（慶長10年）、西尾城主・本多康俊の命により矢作新川の開削工事が行われ、その際に土砂の堆積が進み、入江の一部が閉鎖されました。その後も、沿岸部の洪水被害を防ぐための治水工事が幾度となく行われました。

1644年（正保元年）には、米津と鷲塚の間に堤防が築かれ、入海の一部が切り離されて油ヶ淵が誕生しました。しかし、長田川や稗田川などの流入により、今度は沿岸部の浸水被害が発生。そこで江戸の商人・伏見屋又兵衛が新たな排水路を建設し、新田開発も行いました。さらに1701年（元禄14年）には、大浜村千福で排水する新しい水路の計画が立案され、1704年（宝永元年）までに現在の蜆川・新川に相当する排水路が完成しました。

農業用水としての利用も長く続き、1908年（明治41年）には油ヶ淵を水源とする平和用水が完成し、1975年（昭和50年）まで利用されました。豪雨時の水田への冠水被害を防ぐため、1935年（昭和10年）には高浜川が開削されました。

高度経済成長期には、工業排水や生活排水による汚染が深刻な問題となりましたが、その後、近隣自治体による浄化活動が進み、現在では県営都市公園として整備され、自然豊かな憩いの場となっています。1967年（昭和42年）以降は総合遊園地としての整備が進められ、釣り場や花しょうぶ園などが設けられました。

まとめ

油ヶ淵は、自然と歴史、そして人々の営みが織りなす、魅力あふれる場所です。龍神伝説に彩られた歴史、江戸時代の治水工事によって形作られた地形、そして現代の公園整備による美しい景観は、訪れる人々に安らぎと感動を与え続けています。現在も、自然環境の保全とレクリエーション施設の充実が図られており、未来へと続く貴重な空間として大切に守られています。

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