沼津市立図書館

静岡県沼津市に拠点を置く公立図書館が沼津市立図書館です。市内には、中核となる沼津市立図書館本館と、沼津市立戸田図書館の二つの主要な図書館施設が存在します。現在、三枚橋町に位置する本館は、沼津市の市制施行70周年を記念して、1993年（平成5年）7月に新たな歴史をスタートさせました。

特徴的なサービスと施設

沼津市立図書館本館は、利用者が蔵書全てを直接手に取って選べる「オール開架方式」を導入している点が大きな特色です。これにより、気軽に様々な分野の書籍を閲覧できます。また、図書だけでなく、音や映像の資料にも力を入れており、3階には視聴覚資料に特化したフロアが設けられています。

図書館の貴重な収蔵資料としては、沼津市出身の外交官、市河彦太郎が生涯を通じて収集した約1,200冊の資料が挙げられます。これらの資料は、2階にある郷土資料室で調査研究のために公開されており、地域の歴史や文化を知る上で貴重な資源となっています。また、三島市出身の著名な詩人、大岡信を顕彰するコーナーも開館当初の1993年から設置されており、サイン本や写真パネルなどが展示されています。大岡氏は2004年1月には沼津市名誉市民に推挙され、2017年4月に逝去された際には追悼展示が行われるなど、図書館を通じて地域と文化人の繋がりが深く維持されています。

図書館施設の一部は、その企画事業で使用されていない場合に限り、「教育文化目的」であれば一般利用が可能です。具体的には、講座室、視聴覚ホール、展示ホール、展示ケースなどを利用することができ、地域社会の学びや交流の場としても機能しています。

沼津の図書館の歩み

沼津市の図書館の歴史は古く、その源流は1888年（明治21年）に開設された「沼津尋常小学校付属沼津文庫」に遡ります。これは静岡県で初めて設立された公立図書館とされています。当時の沼津本町外三ヶ町の戸長である山形敬雄と、沼津尋常小学校の間宮喜十郎校長が発起人となり、学校の一室に設けられました。設立当初から、その目的は「和漢洋ノ書籍ヲ蒐集シ廣ク衆庶ノ閲覧ニ供シ教育ノ裨補ヲ諮ル者トス」とされ、一般市民への公開が意図されていました。当初506点だった蔵書は着実に増加し、1940年には9,053冊に達するなど、同時期の市内の他の図書館と比較しても蔵書数は群を抜いていました。やがて小学校の敷地内に独立した建物が建設されましたが、太平洋戦争末期の1945年（昭和20年）7月17日の沼津空襲により、残念ながら建物は焼失し、蔵書の多くも散逸しました。

戦後、図書館サービスは再開されます。1952年（昭和27年）4月には千本浜公園入口に図書室「沼津市立沼津文庫」が開設されました。ここは蔵書は少なかったものの、開架式で運営されました。戦時中に疎開され残った旧沼津文庫の蔵書の一部は、1956年に第一小学校内に設置された同名の学校図書室に引き継がれました。

そして1962年（昭和37年）10月、現在の本館の前身にあたる「沼津市立駿河図書館」が、駿河銀行会長（後に頭取）の岡野喜太郎氏からの多額の寄付を基に、狩野川河岸に開館しました。開館当初は閉架式でしたが、後に3階の閲覧室を縮小して開架書架を設けるなど、開架式へと転換しました。1964年には、第一小学校の学校図書室に保管されていた旧沼津文庫の文献約1,500冊が駿河図書館に移されました。郷土資料室の設置や、旧金岡村役場文書の移管・整理なども進められ、地域資料の充実に努めました。利用者の利便性向上を目指し、1978年（昭和53年）には沼津駅北側のイシバシプラザ内に駅北分室が開設されました。1982年（昭和57年）には、来館が困難な身体障害者向けの図書郵送貸出サービスを開始するなど、サービス拡充も図られました。駅北分室は1992年に場所を移転しましたが、翌1993年の新本館開館と、1994年の耐震問題発覚・利用者減に伴い閉館しました。

現在の沼津市立図書館

1989年（平成元年）に新図書館建設の構想が具体化し、旧沼津市立病院跡地に建設が決定。1993年（平成5年）7月、満を持して現在の沼津市立図書館が開館しました。開館当初から多くの市民が訪れ、最初の1ヶ月間で約9万人が入館、1日あたりの図書貸出・返却総数は5,800冊に達し、当時の浦安市立図書館を上回り「日本一」と報じられるほどの大盛況でした。特に30代前半の主婦層とその子どもたち、会社員などの利用が目立ったといいます。

開館後もサービス向上は続きました。1995年（平成7年）1月には総入館者数100万人を突破。同年4月には、公立図書館としては静岡県内で初めて、東海大学付属図書館沼津分館との間でパソコン通信による蔵書情報ネットワーク化を実現しました。1998年（平成10年）2月には公式ウェブサイトを開設し、オンライン蔵書検索（OPAC）を開始。これも当時の公共図書館としては全国的にも珍しく、特に貸出状況がリアルタイムで反映される機能は画期的でした。インターネットからの貸出予約は2003年（平成15年）4月に、モバイル用ウェブサイトは2008年（平成20年）4月にそれぞれ開始され、デジタル化への対応も進められました。2021年（令和3年）1月には電子書籍貸出サービス「ぬまづ電子図書館」も開設されています。

沼津市立戸田図書館

沼津市と戸田村の合併に伴い、2005年（平成17年）に「戸田村立図書館」から名称変更したのが沼津市立戸田図書館です。戸田村立図書館は1991年（平成3年）4月に開館しました。施設は1階に図書室と事務室、2階に視聴覚室と閉架書庫を備えています。開館時間は曜日に関わらず午前9時から午後5時までですが、祝日は休館となります。

その他の図書館サービス

沼津市では、本館と戸田図書館に加え、市民が身近に図書館サービスを利用できるよう様々な取り組みを行っています。

「自動車文庫（移動図書館）」は、市内の各地域を巡回し、図書サービスの提供を行っています。これは1966年（昭和41年）に市広報車で一部地域への巡回を開始したのが始まりで、1968年には専用車両が導入され本格運用となりました。児童書や小説、趣味の本などを載せて巡回しており、図書館カードは共通で利用でき、予約やリクエストにも対応しています。

また、市内16箇所の地区センターには「地区センター図書室」が設置されています。これにより、市民は自宅や職場の近くで手軽に図書を借りることができます。地区センター図書室でも図書館カードが共通で利用でき、図書を10冊まで14日間借りることが可能です。

沼津市立図書館は、長い歴史を持ち、時代の変化に対応しながら、多様なサービス形態を通じて市民の知的好奇心に応え、生涯学習を支援する役割を果たしています。

もう一度検索