泉春子

泉春子：波乱に満ちた女優の生涯

泉春子（いずみ はるこ、1905年4月20日 - 1998年？）は、日本の映画・テレビドラマ女優として活躍した人物です。長崎県佐世保市に吉村春子として生まれ、15歳で娘歌舞伎に入門。その後、映画プロデューサー牧野省三に見出され、1924年、マキノ映画製作所に入社しました。デビュー作『命の掛橋』では「沢村春子」の芸名を使用しましたが、同姓同名の女優がいたため、すぐに「泉春子」と改名。この芸名は彼女の生涯にわたって使用されました。

1926年には、人見吉之助監督作品『真葛ヶ原女腹切』で初主演を果たし、同年、阪東妻三郎プロダクションに移籍しました。その後、俳優の中根龍太郎と結婚。夫が独立して設立した中根龍太郎喜劇プロダクションにも参加しましたが、短期間で解散したのち、松竹下加茂撮影所に入社しています。夫との共演作『無言詣』（1929年）などを経て、東亜キネマ京都撮影所、大都映画と渡り歩きました。

1944年、第二次世界大戦中に夫・中根龍太郎を亡くすという悲劇に見舞われます。戦後、1954年に映画『変化大名』で女優として復帰を果たし、東映京都撮影所作品を中心に活躍しました。1970年代から1980年代にかけては、テレビドラマにも多数出演。代表的な作品には『素浪人 花山大吉』『大岡越前』『水戸黄門』などがあります。1983年頃までテレビドラマへの出演が確認されていますが、晩年の消息は明らかになっていません。

私生活では、中根龍太郎との結婚後、四男一女をもうけました。中根龍太郎との死別後、再婚も経験していますが、こちらも死別しているとのことです。身長約162.9cm、体重約45kgという記録も残っており、華奢ながらも強い意志を持った女性であったことが伺えます。

泉春子の女優生活は、映画の黄金期からテレビ時代へと続く長く変化の激しい時代を反映しています。マキノプロダクション、阪東妻三郎プロダクション、松竹、東亜キネマ、大都映画、東映など、数多くの映画会社を渡り歩き、時代を象徴する様々な作品に出演しました。

彼女のフィルモグラフィにはサイレント映画からトーキー、そして戦後の作品まで多様な作品が含まれており、その幅広い演技力と時代を生き抜いた強靭な精神力を物語っています。多くの作品が現在では失われてしまっていることも考えられますが、残された記録から、泉春子が日本の映画史に貴重な足跡を残した女優であったことは間違いありません。彼女の生涯は、激動の時代を生きた一人の女性の生き様、そして女優としての輝かしいキャリアを物語る、まさにドラマそのものです。現在、彼女の詳細な晩年は不明な点が多く残されていますが、日本の映画史、そしてテレビドラマ史において、重要な存在として記録されています。

主な出演作品

映画
『命の掛橋』（1924年、監督：沼田紅緑）
『栗飯の焚ける間』（1924年、監督：後藤秋声）
『真葛ヶ原女腹切』（1926年、監督：人見吉之助）
『無言詣』（1929年、監督：古野英治）
『変化大名』（1954年、監督：佐々木康）
『恋や恋なすな恋』（1962年、監督：内田吐夢）
テレビドラマ
素浪人 花山大吉（1970年）
大岡越前（1970年、1974年、1982年）
水戸黄門（1970年）
十手無用 九丁堀事件帖（1975年）
服部半蔵 影の軍団（1980年）

参考文献

『日本映画俳優全集・男優編』（キネマ旬報社、1979年）
『日本映画俳優全集・女優編』（キネマ旬報社、1980年）
『芸能人物事典 明治大正昭和』（日外アソシエーツ、1998年）

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