泰緬孤軍

泰緬孤軍とは

泰緬孤軍（たいめんこぐん）とは、第二次国共内戦の終結に伴い、中国大陸からビルマ（現在のミャンマー）へと退避した中国国民党の敗残兵集団を指す呼称です。1949年末、雲南省から国境を越えてビルマ領内に逃れた国民党の部隊が集結し、当初は「雲南反共救国軍」、後に「雲南人民反共志願軍」として組織化されました。この勢力は、中緬国境地帯に数万人規模で展開し、失地回復を目指して中国大陸への反攻を幾度か試みましたが、国際的な圧力と軍事行動の結果、1953年と1961年の二度にわたる撤退を経て、その大部分が台湾へと移送されることとなりました。

その後も一部の部隊がビルマ国内に残留していましたが、最終的にはタイ北部へと活動の拠点を移します。彼らは、タイ政府の支援を受けながら、当時のタイ国内における共産党勢力との戦闘に動員されるなど、複雑な運命を辿ることになります。

歴史

成立から第一次撤退まで

1949年末、人民解放軍が雲南省に進攻を開始すると、同地の国民党軍は敗走を余儀なくされました。多くの部隊が降伏する中で、李国輝や譚忠らに率いられた一部の兵力は、国境を越えてビルマ領内へと逃れ込みました。1950年に入ると、李国輝を主導者として、これらのビルマにおける国民党勢力は「復興部隊」として再編されます。

同年6月に朝鮮戦争が勃発すると、アメリカ合衆国は台湾とビルマにいる国民党勢力への支援を開始しました。これは、朝鮮半島への人民解放軍の集中を牽制し、ビルマにおける共産主義の影響力拡大を抑える目的も含まれていました。CIAやタイ警察の協力を得て、彼らには武器が供給されます。1951年には、台湾の中華民国総統である蒋介石から戦闘継続を促す電文が届き、台湾に避難していた第八軍司令官の李弥がビルマ入りして部隊を統括。同年4月11日、シャン州モンサッを本拠地として「雲南反共救国軍」が正式に発足し、2万人を超える兵士が集結しました。

1951年5月には、反共救国軍は雲南省への反攻作戦を決行し、国境沿いのいくつかの都市を一時的に占領しました。しかし、人民解放軍の大規模な反撃を受けて7月には撤退を余儀なくされます。その後も勢力は拡大し、1953年までに兵力は3万人を超えました。ビルマ連邦政府は自国領内に外国の軍隊が駐留している状況を容認できず、1953年にはサルウィン川流域に展開する反共救国軍に対して攻撃を仕掛けましたが、ビルマ軍はこの戦いで大きな損害を被りました（サルウィン川の戦い）。

同年3月、ビルマ政府は国際連合に「中華民国による侵略行為」として提訴しました。この訴えは第7回国連総会で採択され、これを受けて設置された監督委員会（中華民国、ビルマ、アメリカ、タイの代表で構成）を通じて、ビルマ駐屯国民党軍の撤退が要求されます。これにより、1953年11月から翌年6月にかけて、約6,500人が台湾へ撤退しました。この頃、李弥は雲南反共救国軍の解散を宣言しました。

第二次撤退とタイ北部への移転

第一次撤退後も、一部の国民党勢力は依然としてビルマ領内に留まりました。中華民国政府は1954年10月に柳元麟を派遣し、残留部隊は「雲南人民反共志願軍」として再編されました。1955年には、本拠地をラオス国境に近いチャインラッに移し、部隊は五つの軍に組織されました。1958年には小規模ながら再び雲南への反攻を試みます。

ビルマ政府および中華人民共和国政府は、これらの国民党勢力を引き続き安全保障上の脅威と見なしていました。1960年から1961年にかけて、ビルマ軍と人民解放軍は国民党勢力を掃討するための合同軍事作戦を実施しました（中緬辺境作戦）。この作戦により国民党軍は大きな被害を受け、一部の部隊を除き、大半がラオスへと撤退しました。一部の部隊はタイ北部やワ州へも移動しました。

1961年、ビルマ政府は再び国連で中華民国による自国領土侵略を訴えます。アメリカからの強い働きかけと財政支援の申し出もあり、中華民国政府は同年3月から5月にかけて反共志願軍の第二次撤退を実施し、約5,000人がタイ北部のチェンマイ空港経由で台湾に移送されました。この第二次撤退は、責任者の名を取って「国雷演習」とも呼ばれました。しかし、この撤退後も全ての兵士が台湾に戻ったわけではなく、特に李文煥率いる第三軍の一部がチェンマイ県のタムゴップに、段希文率いる第五軍の一部がチェンラーイ県のメーサロンへと移動し、タイ北部を新たな拠点としました。

この頃、台湾では、柏楊（鄧克保の偽名）が1961年に発表した小説『異域』がベストセラーとなり、ビルマやタイにいる国民党残党勢力、すなわち「泰緬孤軍」への関心が高まりました。この小説の影響により、彼らは台湾で「泰緬孤軍」として広く知られるようになります。

北タイ孤軍としての活動と終結

1961年、タイ北部へ流入した国民党勢力への対応がタイ政府内で議論されました。当時のサリット・タナラット首相は、彼らに対し退去や武装解除を交渉し、応じない場合は監視するという静観的な対応方針を示しました。これは、難民状態にある彼らを強制排除することの困難さや、中華民国との関係悪化を避けたい思惑に加え、反共主義を掲げるタイ政府にとって、共産党勢力との戦いを続ける彼らの状況に同情的な側面もあったからです。

さらに、タイ北部国境地帯におけるタイ政府の支配力が必ずしも盤石ではなかったことから、タイ政府は彼らをビルマやラオスからの共産主義勢力の侵入を防ぐ「防波堤」として利用することを決めます。これにより、タイ北部国境の一部地域は国民党勢力の管理下に置かれることとなり、彼らは政府の黙認の下、国境地域での通行料徴収やアヘン密輸に関与していたと指摘されています（「非公式の国境警察」とも呼ばれる）。

1960年代後半に入り、タイ国内の共産党勢力が山岳部でゲリラ活動を活発化させると、1969年より国民党勢力はタイ政府からの依頼を受けて、タイ共産党の掃討作戦に従事するようになります。1968年から1970年にかけて、タイと中華民国の両政府は、タイ北部に残る国民党勢力（北タイ孤軍と呼ばれるようになった）の処遇について協議を行いました。中華民国側は指導者の交代や組織の再編を求めましたが、タイ側は彼らへの指揮権は自国にあると主張し、最終的には中華民国側が譲歩する形となりました。1970年には、国民党兵士はタイ王国軍最高司令部直属の「04指揮部」の監督下に置かれ、後に「泰北山区民衆自衛隊」として改編されました。1971年以降、タイ政府は彼らを辺境地域の道路建設に動員したり、国境近くの村落に再定住させたりする政策を進めました。

1978年頃から、タイ政府は共産党掃討に功績のあった北タイ孤軍兵士への帰化を本格的に推進し始めますが、帰化の条件として共産党勢力との戦いでの功績が求められるなどしたため、1983年時点でも約1,300世帯6,000人が難民や一時居留者のまま残されていました。1981年にはペッチャブーン県で、彼らにとって最後の大規模な対共産党作戦が行われています。

1982年、柏楊が泰緬孤軍の窮状を綴ったルポルタージュ『金三角、辺境、荒城』を出版したことを機に、台湾本国に彼らの置かれた厳しい状況が伝わりました。これを契機として、台湾では「送炭到泰北」（北タイへ温もりを送ろう）という大規模な支援キャンペーンが展開されます。しかし、タイ政府は自国の領内に滞在する外国の軍隊へ、その母国が支援を行う状況を好ましく思わず、彼らに対する本格的なタイ社会への同化（タイ化）政策を加速させることとなりました。1984年には、タイ政府が共産党勢力との内戦状態の終結を宣言し、泰緬孤軍は武装解除されました。また、1991年には中華民国政府も国共内戦の終結を宣言しています。

現在、タイ北部のメーサロンなど、かつて泰緬孤軍の拠点が置かれた地域には、彼らとその子孫が多く暮らしており、独特の文化を形成しています。

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