ペッチャブーン県

ペッチャブーン県（จังหวัดเพชรบูรณ์）

タイ北部、正式名称では「チャンワット」と呼ばれる行政区画の一つが、このペッチャブーン県です。その県境は、ルーイ県、コーンケン県、チャイヤプーム県、ロッブリー県、ナコーンサワン県、ピチット県、そしてピッサヌローク県といった、多数の県に接しています。

地理的特徴

ペッチャブーン県の中心部、県都が置かれるあたりは、周囲を山々がぐるりと取り囲む盆地地形を形成しています。この盆地の中を、パーサック川がゆったりと流れており、その恩恵を受けて土地は非常に肥沃で農業に適しています。

特に県内の高地に広がる高原地帯は、その美しい自然景観から、タイ国内でしばしば「タイのスイス」と称されるほどです。この地域には、カオコーやナムナオといった名だたる国立公園が点在しており、豊かな自然が保護されています。

農業も盛んで、特に県の誇る特産品として知られているのがタマリンドです。タイ語ではマカームと呼ばれ、毎年1月頃に収穫期を迎えます。ペッチャブーン産のマカーム、特に「マカーム・シー・トーン」という品種は、その品質の高さで全国的に有名です。この収穫の時期には、甘みの強い品種である「マカーム・ワーン」の豊作を祝う活気あふれるお祭りも開催され、多くの人々で賑わいます。

気候

盆地に位置する影響で、気候は乾季の昼間を中心に非常に高温になる傾向があります。特に4月は、タイ国内でも最も暑くなる地域の一つに数えられ、平均最高気温が37℃を超えることも珍しくありません。雨季は比較的長く、概ね5月から10月中旬頃まで続きます。

歴史

ペッチャブーンの歴史は古く、かつては東南アジアに広大な版図を築いたクメール王朝の重要な地方都市の一つとして栄えました。現在も県の史跡として残るシーテープ歴史公園には、11世紀頃にクメール王朝時代に築かれた壮大な遺跡群が点在しており、当時の繁栄を今に伝えています。

近代に入ると、20世紀には隣接していたロムサック県がペッチャブーンに編入されるという行政区画の変更がありました。この統合の結果、当時のタイの広域行政制度である「モントン」の下では、ペッチャブーンが単独で一つのモントンを構成するという、国内でも類を見ない特異な形態をとることになりました。この単独モントンという特徴ゆえに、1915年（タイ仏暦2458年）にモントン制度が廃止される際、ペッチャブーンは他の地域に先駆けて真っ先に解体されることとなりました。

また、山岳地帯が多いという地理的利点から、第二次世界大戦中には歴史的な役割を担う可能性がありました。当時のピブーンソンクラーム首相政権下で、連合国軍による首都バンコクへの空襲が激化した際、一時的な首都の移転計画が持ち上がり、その候補地の一つとしてペッチャブーンが検討された時期もありました。

冷戦時代には、ペッチャブーン県の山岳部、特にコー山周辺が緊迫した舞台となりました。この地域は、ラオスや中国の共産主義勢力と連携する少数民族のゲリラ組織にとっての隠れ家となり、タイ政府軍との間で激しい武力衝突が長期間にわたって繰り広げられました。現在でも、その歴史的な名残として、山奥に当時のゲリラが使用していた小屋の跡などがひっそりと残されています。特に、コー山頂にあったゲリラ掃討のための旧前線基地跡は、現在記念公園として整備されており、当時撃墜された偵察機やヘリコプター、被弾した装甲車などが展示され、当時の緊迫した状況を克明に伝えています。

自然災害に関わる出来事としては、1976年9月12日に県のムアン村で大規模な鉄砲水が発生し、39名もの死者および行方不明者を出すという甚大な被害をもたらしたことも記録されています。

行政区画

ペッチャブーン県は、行政区分として全部で11の郡（アムプー）に分けられています。さらに、その下には117の町（タムボン）があり、最も末端の行政単位として1,261の村（ムーバーン）が配置されています。

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