洛東江 (秘密工作機関)

洛東江（ナクトンガン）とは

洛東江（ナクトンガン、朝鮮語: 낙동강）は、日本国内に拠点を置く北朝鮮の秘密工作機関であり、関西地方を拠点とする非公然の在日朝鮮人組織です。この組織は、大韓民国南部を流れる川（洛東江）の名を冠しており、その活動は1980年代から現在に至るまで、日本の公安当局によって監視されています。

組織の概要

「洛東江」は、1985年に発覚した西新井事件を契機に、その存在が明るみに出ました。この事件では、北朝鮮工作員「朴」が、日本人2名の戸籍を不正に入手し、10年以上にわたり工作活動を行っていたことが判明しました。「朴」は、1978年に蓮池薫・奥土祐木子夫妻を拉致した実行犯チェ・スンチョルであることが特定され、国際手配されています。

また、西新井事件の背後には、在日韓国人である李京雨（リ・ギョンウ、日本名：宮本明）の存在がありました。彼は、田口八重子拉致事件にも関与した疑いがあり、1987年の大韓航空機爆破事件で自殺した金勝一の偽造旅券入手にも関与していたとされています。この李京雨に資金提供をしていたのが、近畿地方を拠点とする秘密組織「洛東江」です。

「洛東江」は、多数の工作員や協力者を抱え、様々な手段で資金を調達し、北朝鮮へ送金していました。警察当局は、「洛東江」への資金提供を指示したのは、朝鮮労働党対外情報調査部（現在の統一戦線部）幹部の金世鎬（キム・セホ）だとみています。金世鎬は、1977年に発生した宇出津事件の主犯として国際手配されている人物です。

組織の活動と関与した事件

朝鮮総連の活動家からスカウトされた在日工作員、張龍雲（チャン・ヨンウン）は、コードネーム「黒い蛇」として知られ、金日成・金正日父子のため、闇社会を通じて莫大な不正資金を集めて北朝鮮に送金していました。しかし、祖国と朝鮮総連に裏切られたため、自身の活動を告発する著書『朝鮮総連工作員』を出版しました。

同書によれば、1974年に発生した朴正煕大統領暗殺未遂事件（文世光事件）には、「洛東江」の大物工作員、曹廷楽（チョ・ジョンガリ）が関与していたとされています。

また、張龍雲は、「洛東江」が田中実拉致事件の実行犯グループであることも暴露しました。田中実の拉致には、「洛東江」の工作員で田中が勤務していたラーメン店「来大」の店主、韓竜大（ハン・ヨンデ）が関与しており、1978年6月6日に田中実を成田空港からオーストリアに連れ出し、モスクワ経由で平壌に拉致しました。

さらに、田中実の拉致事件に関連し、半年後に同僚だった韓国籍の金田龍光が、田中実名義のウィーンからの郵便を受け取った後に失踪しており、彼もまた拉致された可能性が高いとされています。

救う会（北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会）は、2003年に拉致実行犯の一人である曹廷楽と接触に成功し、韓竜大とその上司である曹廷楽を国外移送目的略取罪で告発しています。

組織の特徴

「洛東江」は、その活動の性質上、非常に閉鎖的で、組織内部の情報が外部に漏れることはほとんどありません。しかし、西新井事件や拉致事件を通じて、その活動の一部が明らかになりつつあります。組織は、在日朝鮮人を基盤としており、工作員は日常的な生活を送りながら、密かに工作活動を行っています。また、不正な資金調達に長けており、様々なルートを通じて資金を集め、北朝鮮に送金しています。

参考文献

荒木和博『拉致 異常な国家の本質』勉誠出版、2005年2月。ISBN 4-585-05322-0。
張龍雲『朝鮮総連工作員』小学館〈小学館文庫〉、1999年10月。ISBN 978-4094037111。
全富億『北朝鮮の女スパイ』講談社、1994年4月。ISBN 4-06-207014-6。
西岡力『コリア・タブーを解く』亜紀書房、1997年2月。ISBN 4-7505-9703-1。

関連項目

朝鮮民主主義人民共和国の諜報・情報機関
対南工作
北朝鮮によるテロ事件一覧
北朝鮮による日本人拉致問題

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