流通地理学

流通地理学とは

流通地理学は、生産から消費に至る商品の流れ、特に都市空間における流通業の役割を研究する地理学の一分野です。具体的には、卸売業や小売業といった個々の業種の商圏や立地特性、大規模な流通企業の経営戦略、物流システムと都市空間との関係などを分析します。

流通のプロセスと地理学

商品の流れは、一般的に生産、中間流通（卸売業）、末端流通（小売業）、消費というプロセスで説明されます。伝統的な経済地理学では、主に生産部門の研究が中心でしたが、流通や消費の過程は系統地理学ではあまり扱われてきませんでした。小売業や卸売業は、都市の中心的な機能として、都市地理学や商業地理学の分野で研究されることが多かったのです。このような状況の中、1984年に長谷川典夫が、商業地理学、交通地理学、都市地理学を融合させた「流通地理学」という概念を提唱しました。

研究の視点

初期の流通地理学の研究では、小売企業の立地戦略や市場分析など、収入要因の分析が中心でした。しかし、1990年代以降は、仕入れや経営にかかる費用要因にも着目するようになり、企業間の競争によって生じる空間的なパターンや、企業主導の物流システムの構築が研究対象となっています。また、規制緩和、情報化、グローバル化が進んだ1990年代以降は、大手流通資本やチェーンストアと中心市街地との関係、技術革新や政策転換と流通システムとの関係、流通資本の国際的な展開なども研究されるようになりました。

流通地理学の課題と展望

過去の研究では、流通チャネルの末端部分である小売業を扱う研究が主流で、流通チャネル全体の流れを垂直的に扱う研究は少なかったという指摘があります。また、1990年代以前は、企業の収入要因に焦点が当てられ、費用要因が軽視される傾向がありました。今後の研究では、流通チャネル全体を捉えた研究や、費用要因を考慮したより総合的な分析が求められます。また、グローバル化や情報化といった社会の変化に対応した、新たな流通システムのあり方についても研究が進められるでしょう。

関連分野

流通地理学は、経済地理学、商業地理学、小売業の地理学、都市地理学など、様々な分野と深く関連しています。これらの分野との連携を通じて、流通の複雑なメカニズムを解き明かし、より良い都市空間の形成に貢献することが期待されます。

主な参考文献

荒井良雄・箸本健二 編(2004) 『日本の流通と都市空間』古今書院
根田克彦(2008) 日本における「小売業の地理学」の研究動向とその課題．地理空間．1(2)：128-141
箸本健二(1995) 流通地理学は何をめざすか．地理．40–2: 77–81．
箸本健二(2001) 『日本の流通システムと情報化―流通空間の構造変容―』古今書院
* 長谷川典夫(1974) 流通, 特に卸売業に関する地理学的研究について．東北地理．16(1) : 53-57

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