浄福寺 (奈良市)

浄福寺：歴史と文化が息づく奈良の古刹

奈良市興善院町に佇む浄福寺は、光明山を山号、興善院を院号、賢故坊を坊号とする浄土宗の寺院です。その歴史は古く、寺伝によれば、光明皇后が人々の救済を祈念した際に阿閦如来が顕現し、本堂を建立したと伝えられています。隣接地に北山十八間戸が存在するこの地は、古くから聖地として認識されていたことを示唆する伝承と言えるでしょう。

かつては法相宗に属し興福寺の支配下にあったとされますが、現在の寺容は天文10年（1541年）の火災後、寛文6年（1666年）の再建以降の姿です。この再建を主導したのが賢故坊であり、それが坊号の由来となっています。本堂は寛文6年6月15日に建立されたことが棟札から判明しており、その後、衰微と損壊を経て、安政4年（1857年）に再興されました。

寺院の宝：貴重な文化財

浄福寺には、数多くの貴重な文化財が収蔵されています。

本尊

本堂内陣中央には、本尊である阿弥陀如来像が安置されています。鎌倉時代から室町時代にかけて造られたと推測される古くからの仏像ですが、光背と台座は江戸時代の再興時に作られたものです。

仏像

脇壇には、宗祖である善導大師と法然上人の坐像（厨子内）、そして開山である賢故上人の坐像が安置されています。その他、阿弥陀如来立像や地蔵菩薩立像なども存在し、それぞれの仏像が静かに歴史を見つめているようです。

仏具

文久3年（1863年）銘の伏鉦や、天保14年（1843年）銘の木魚など、古くから伝わる仏具も大切に保管されています。これらの仏具は、当時の寺院の盛況と信仰の深さを物語る貴重な遺品です。

寺院周辺：夕日地蔵と歴史の足跡

浄福寺の東側、道路を挟んで夕日地蔵が立っています。永正6年（1509年）に興福寺の僧によって造立されたこの地蔵は、高さ約2メートルで、地蔵の左右には建立に関する銘が刻まれています。歌人である会津八一もこの地蔵を詠んでおり、その歌碑が隣に設置されています。

また、境内周辺には、菩提院蔵俊の墓（五輪塔）、了法印権大僧都興善院と刻まれた背光五輪碑（天正17年、安山岩製）など、歴史を感じさせる遺構が残されています。興善院は、かつて菩提院大御堂の東にあった塔頭で、聡明で弁舌に長けた高僧、蔵俊僧正（八舌僧正とも）によって開かれたと伝えられています。

浄福寺は、歴史の重みと静寂に包まれた、貴重な文化遺産です。訪れる者は、古の息吹を感じ、静かな時の中で安らぎを見つけることができるでしょう。静かに佇む仏像や、歴史を刻む石碑、そして周辺の自然。それらが織りなす調和は、まさに奈良の隠れた名所と言えるでしょう。

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