浜崎太平次

浜崎太平次：薩摩藩を支えた豪商の生涯

浜崎太平次（はまさき たへいじ、旧字体：濱崎太平󠄁次󠄁、文化11年（1814年） - 文久3年（1863年））は、江戸時代末期に薩摩藩で活躍した商人です。紀州の紀伊國屋文左衛門、加賀の銭屋五兵衛と並び、「実業界の三傑」の一人として知られています。没落寸前の家業を立て直し、薩摩藩の財政を支えるほどの豪商にまで上り詰めた、その波瀾万丈な生涯を紐解きます。

苦難の時代を乗り越えて

浜崎家は代々、海運業を営んでいました。太平次の祖父の代には隆盛を極めましたが、太平次の幼少期には家業が傾きかけていました。太平次は、収穫後の畑で唐芋を拾って飢えを凌ぐような日々を送ったといいます。14歳から商船で琉球との交易に従事し、18歳で父の死後、8代目太平次を襲名しました。

太平次は家業再興のため、琉球貿易に力を注ぎました。摺ヶ浜の富豪から借金をして元手に、自ら船に乗り込み貿易を始めます。当初、富豪からは危険な船乗りではなく、安全な仕事をするように諭されたそうですが、太平次はそれを聞き入れませんでした。この時の決断が、後の成功に繋がります。

薩摩藩の財政を支える

当時、薩摩藩では藩主・島津重豪が家老の調所広郷に命じて藩政改革を行っていました。その一環として、奄美群島で生産される砂糖の専売を強化。奄美群島への輸送手段は海運に限られていたため、太平次のような海商の存在が不可欠でした。太平次は藩の海商船団の一角を担い、生活必需品を奄美に運び込み、砂糖と交換して売りさばくことで利益を上げました。また、琉球との交易は幕府からは密貿易とみなされていましたが、薩摩藩はこれを黙認。太平次は山川港と琉球を結ぶ交易船で、莫大な利益を得たとされています。

太平次は貿易で得た利益を元に事業を拡大し、那覇、長崎、大坂、函館、新潟などに支店を構えるまでに成長しました。特に大阪支店は薩摩藩の財政に重要な役割を果たし、太平次は藩に多額の献金も行いました。また、造船業にも進出し、自前の造船所を開設。藩の御用運送人として活躍しました。

機械紡績業の先駆け

日本の機械紡績業は薩摩藩から始まったとされていますが、そのきっかけを作ったのは太平次でした。太平次は西洋産の機械綿糸を島津斉彬に献上し、それが機械紡績導入のきっかけになったと言われています。

突然の死とその後

文久3年（1863年）、太平次は大坂で客死しました。その死を悼み、島津久光は「我が片腕を失った」と嘆いたと伝えられています。また、孝明天皇が侍医を遣わせたという逸話も残っています。

太平次の死後、9代目が家督を継ぎましたが、若くして亡くなったため、10代目が浜崎家を継ぎました。しかし、10代目の放蕩により浜崎家は没落。堺紡績所も川崎正蔵の手に渡りました。

人々の記憶に残る豪商

太平次の写真や肖像画は一枚も残っていませんが、鹿児島県指宿市には太平次の銅像が建てられています。また、司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』にも登場するなど、その名は広く知られています。

太平次の末裔にあたる蔵元中俣家は、焼酎「八代目 濱崎太平次」を販売しており、その名を受け継いでいます。

浜崎太平次は、時代の荒波を乗り越え、薩摩藩の財政を支えた偉大な商人でした。その不屈の精神と行動力は、今もなお多くの人々に感銘を与え続けています。

もう一度検索