浮遊選鉱

浮遊選鉱（浮選）とは

浮遊選鉱（ふゆうせんこう、英語: flotation method）は、鉱石から有用な鉱物を効率的に回収するための選鉱技術の一つです。採掘された鉱石を細かく砕き、水と界面活性剤などの化学薬品を加えて撹拌することで、鉱物を分離します。この際、発生させた泡に特定の鉱物を付着させて浮上させ、不要な鉱物（脈石）と分離します。

浮遊選鉱の原理

鉱物の分離は、鉱物表面の性質の違いを利用します。一般的に、岩石の表面は水となじみやすい親水性を示す一方、金属は油となじみやすい疎水性を示す傾向があります。この性質を利用し、水と油性溶液を混ぜた液体（パルプ）に鉱石の粉末を加え、撹拌します。すると、親水性の粒子は水に濡れて沈み、疎水性の粒子は油に付着して浮上します。

ただし、鉱物の親水性・疎水性は、その種類や状態によって異なります。そのため、浮遊選鉱では、薬品を添加することで鉱物の表面性質を人工的に調整し、分離効率を高める工夫が行われます。この原理は金属以外の物質の選別にも応用されており、粘土の選鉱などにも利用されています。

浮遊選鉱の歴史と発展

浮遊選鉱の歴史は古く、古代から油やピッチが特定の鉱物を集めやすい性質が経験的に知られていました。以下に代表的な浮遊選鉱法とその発展について解説します。

多油浮選（bulk-oil flotation）：1860年、英国人ウィリアム・ヘインズが油を用いて硫化鉱物と脈石を分離する特許を取得しました。これが浮遊選鉱に関する最初の特許とされています。
被膜浮選（skin flotation）：1877年、鉱石を粉砕し液体と混合したパルプにガスを吹き込み、液面に浮かんだ鉱物粒子の被膜を分離する特許が出願されました。1885年には、酸や塩を加えて化学反応で泡立てる方法が発明されました。
泡沫浮選 (Froth flotation)：1905年にオーストラリアのブロークンヒルで開発され、商業的に成功を収めた方法です。現在、主流となっている浮遊選鉱法であり、以下の工程で鉱物を分離・回収します。

泡沫浮選の工程

1. 粉砕・パルプ化：鉱山から採掘された岩石を大型ミルで細かく粉砕し、液体を加えて泥漿状のパルプにします。
2. 起泡・凝集：起泡剤（界面活性剤や油脂など）をパルプに添加し、撹拌機で撹拌しながら空気を吹き込みます。これにより、有用鉱物が泡に凝集しやすくなります。
3. 分離・回収：パルプ表面に形成された有用鉱物を含む泡（フロス）層をシックナーと呼ばれる水槽に集め、鉱石と水分・薬品を分離して目的の鉱物を回収します。

副産物と廃棄物

浮遊選鉱の過程で、脈石を多く含む泥状の物体が撹拌装置の底に沈殿します。これはスライムと呼ばれ、経済的に利用可能な場合は粘土などを選鉱した上で、最終的に廃棄されます。スライムには鉱石や薬品由来の有害成分が含まれるため、鉱滓ダムに堆積されます。水分を失ったスライムは、そのまま放置されるか、坑道の充填材として再利用されることもあります。

浮遊選鉱の種類

目的とする鉱物の種類数によって、浮遊選鉱はいくつかの種類に分類できます。

単一浮選：鉱石中の1種類の鉱物を精鉱として回収する方法です。
直接優先浮選：選鉱剤を工夫し、2種類以上の鉱物を段階的に選別する方法です。
総合浮選：複数の有用鉱物をまとめて選別する方法です。

日本では、昭和25～30年頃には、1日処理量50トン以上の機械選鉱場の90%以上で浮遊選鉱が導入されていました。

浮遊選鉱のメリットとデメリット

メリット

従来は廃棄されていた低品位の鉱石からの回収率が向上し、鉱山の採算性が向上しました。
金属価格の下落を促し、工業の発展に貢献しました。

デメリット

選鉱に用いられる廃水中の重金属が下流で濃縮され、鉱害（足尾銅山鉱毒事件、イタイイタイ病など）を引き起こす可能性があります。

浮遊選鉱は、資源の有効利用に大きく貢献する一方で、環境への負荷にも配慮する必要がある技術です。

関連項目

佐渡金山：近代化産業遺産であり、北沢浮遊選鉱場が含まれています。
* イトムカ鉱山：北海道にあった水銀鉱山で、独自の浮遊選鉱装置を用いて自然水銀を回収していました。現存する浮遊選鉱場は一般には非公開です。

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