海の交響曲

海の交響曲

「海の交響曲」（うみのこうきょうきょく）という名称は、クラシック音楽の世界において複数の作曲家によって用いられています。レイフ・ヴォーン・ウィリアムズのほか、スウェーデンのヨースタ・ニューストレム（Sinfonia del mare）、フランスのジャック・イベール（Symphonie marine）、アメリカのハワード・ハンソン（交響曲第7番『海の交響曲』）、そして日本の服部正による同名の管弦楽曲が存在します。本稿では、イギリスの作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが手がけた、中でも特に著名な『海の交響曲』（A Sea Symphony）について詳細に解説します。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ：海の交響曲

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが作曲した『海の交響曲』は、彼の交響曲としては最初に書かれた作品であり、後には「交響曲第1番」と呼ばれることもありますが、通常は単に『海の交響曲』として認識されています。「交響曲第1番『海の交響曲』」といった呼び方は一般的ではありません。

概要

この交響曲は、声楽と管弦楽が一体となった大規模な作品です。通常のオーケストラに加え、ソプラノとバリトンの二人の独唱者、そして混声合唱を必要とし、ヴォーン・ウィリアムズが遺した全9曲の交響曲の中でも、最も壮大な編成を誇ります。

作品のテキストには、アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの詩集『草の葉』が用いられています。ホイットマンの詩はイギリスやアメリカの作曲家によって数多く音楽化されており、ヴォーン・ウィリアムズ自身もこの詩集からテキストを選んだ合唱作品『未知の国へ』（1905年）などを発表していますが、中でも『海の交響曲』は最大規模の作品として知られています。

楽曲は古典的な4楽章形式で構成されていますが、作曲者自身は各楽章を単独で演奏しても良いとしています。また、声楽パートが非常に重要な役割を担っており、純粋な交響曲というよりは、むしろオラトリオに近い性格も持っています。この点から、イギリスにおけるオラトリオの伝統の流れの中に位置づけられる作品とも言えるでしょう。

作曲は1903年に始まり、完成までには約7年の歳月が費やされ、1910年に完成しました。この作曲期間中には、歌曲集『命の家』（1903年頃）、歌曲集『旅の歌』（1904年）、交響的印象『沼沢地方にて』（1904年）、弦楽四重奏曲第1番（1908年）、劇音楽『すずめばち』（1909年初演）、そして『トマス・タリスの主題による幻想曲』（1910年）といった重要な作品が生み出されています。

初演は、完成した年の1910年10月12日、作曲者自身の38歳の誕生日に、リーズ音楽祭で作曲者自身の指揮によって行われました。

楽器編成

この作品に必要な楽器編成は以下の通りです。

ピッコロ
フルート2
オーボエ2
コーラングレ
クラリネット3
バスクラリネット
ファゴット2
コントラファゴット
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
大太鼓
小太鼓
トライアングル
シンバル
ハープ2
オルガン
ソプラノ独唱
バリトン独唱
混声四部合唱
弦五部

なお、木管楽器とハープについては、以下の通り編成を縮小して演奏することも可能です。

フルート2（うち1人がピッコロ持ち替え）
オーボエ1
コーラングレ
クラリネット2
ファゴット2
* ハープ1

楽曲の構成

全4楽章で構成され、各楽章にはホイットマンの詩に基づく標題が付けられています。

1. 第1楽章 「全ての海、全ての船の歌」 (A song for all seas, all ships) - アンダンテ・マエストーソ
2. 第2楽章 「夜、渚に一人いて」 (On the beach at night, alone) - ラルゴ・ソステヌート
3. 第3楽章 「波」 (The waves) - スケルツォ アレグロ・ブリランテ
4. 第4楽章 「探求する人々」 (The explorers) - グラーヴェ・エ・モルト・アダージョ

全曲を通しての演奏時間は、およそ1時間5分です。

この作品は、広大な海とその精神的な象徴を音楽で表現しようとした、ヴォーン・ウィリアムズ初期の傑作であり、イギリス音楽史においても重要な位置を占めています。

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