海野信親

海野信親：盲目の武将、数奇な運命

海野信親（うんの のぶちか）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて生きた武将であり、甲斐の戦国大名・武田信玄（晴信）の次男として知られています。武田竜芳（たけだ りゅうほう）または武田竜宝とも呼ばれ、勝重（かつしげ）という諱も持っていました。

生涯

幼名は二郎。母は三条の方（三条院殿）で、武田家嫡男の義信や夭折した信之は同母兄弟、武田家を継承した武田勝頼は異母弟にあたります。

『甲陽軍鑑』によれば、信親は盲目であったと伝えられています。失明の時期については、『甲斐国志』は生まれつきの盲目であったという説を採っています。しかし、近年の研究では、弘治2年（1556年）の武田晴信願文写の存在から、幼少期の失明であった可能性も指摘されています。この願文には、信玄が疱瘡にかかった息子の目の治癒を願う内容が記されているとのことです。

信親は、信玄期の信濃侵攻で征服した信濃小県郡の国衆・海野幸義の娘を娶り、海野氏の名跡を継承しました。その後、一向宗（浄土真宗）の僧である長延寺実了の弟子となり出家し、竜芳と号しました。

信親は半俗半僧の身であり、『軍鑑』では御親族衆には含めず、政治の表舞台に出ることはありませんでした。幼年男子や側室、女子などに用いられる「様」付呼称で「御聖導様」（ごしょうどうさま）と称されていました。

永禄8年（1565年）には、兄の武田義信が謀反により東光寺に幽閉されるという事件（義信事件）が起こりました。竜芳は盲目であり、弟の信之は夭折していたため、武田家の家督は異母弟の勝頼が継承することとなりました。

天正10年（1582年）、織田信長による甲斐侵攻の際は甲斐入明寺に匿われましたが、天目山の戦いにおける勝頼敗死の知らせを聞くや、同寺で自殺したとも、殺害されたとも伝えられています。命日は3月7日、武田家滅亡の4日前、信長の嫡子・織田信忠により殺害されたともいわれます。享年42。法名は長元院殿釈潭竜芳大居士。

子孫

一族の穴山信君（梅雪）の娘を娶り、その間に儲けた子の信道は出家して顕了道快と号し、織田家による残党狩りを逃れましたが、大久保長安事件に連座して伊豆大島に流されました。その後、紆余曲折を経て赦免され、江戸幕府の高家として命脈を保ちました。また、妹の信松院殿に匿われた女子もいたと伝えられています。

このように、海野信親は武田信玄の息子でありながら、盲目という宿命を背負い、政治の表舞台に出ることなく、数奇な運命をたどった人物でした。

参考文献

黒田基樹「武田竜芳」（柴辻俊六編『武田信玄大辞典』吉川弘文館、1995年）
柴辻俊六「武田信玄とその一族」（柴辻俊六編『新編武田信玄のすべて』新人物往来社、2008年）
平山優「武田信玄の家臣団編成」（柴辻俊六編『新編武田信玄のすべて』（新人物往来社、2008年）
笹本正治『武田信玄』（ミネルヴァ書房、2005年）
丸島和洋編『武田信玄の子供たち』（宮帯出版社、2022年）

関連項目

武田信玄（晴信）
甲斐侵攻
武田勝頼
武田義信
躑躅ヶ崎館
* 穴山信君

もう一度検索