父なるダゴンと母なるヒュドラ

クトゥルフ神話における深きものどもの支配者：父なるダゴンと母なるヒュドラ

クトゥルフ神話において、深きものどもを率いる存在として「父なるダゴン」と「母なるヒュドラ」が知られています。両神は、それぞれ個別の神格であり、「父なる」「母なる」という敬称が付けられています。

父なるダゴン：深きものどもの長

父なるダゴンは、深きものどもの中でも特に巨大な存在として描かれ、その身長は6メートル以上とも伝えられています。半魚人のような姿で、水かきのある手足と、大きく張り出した濁った目を持ちます。彼は深きものどもの指導者として君臨する一方、旧支配者クトゥルフに仕える従者という側面も持ち合わせています。水の神格に属し、クトゥルフ神話における重要な存在となっています。

ダゴンの初出は、H.P.ラヴクラフトの短編小説『ダゴン』(1917年)です。この作品では、古代人が神として崇拝していた巨大な怪物として登場し、主人公を恐怖のどん底に突き落とします。その後、『インスマウスの影』において、ダゴンを小型化したような存在である深きものどもが登場し、人間と混血し、秘密結社を形成していることが明らかになります。

ダゴンという名称は、旧約聖書に登場するペリシテ人が崇拝した神に由来しており、ユダヤ教の視点からは異教の神、悪魔として捉えられています。『インスマウスの影』においても、ダゴンはアスタロトやベリアルといったキリスト教の悪魔と並べて言及されています。

興味深いのは、ラヴクラフト自身はダゴンの正体について曖昧なままにしている点です。深きものどもがクトゥルフを崇拝する一方、ダゴンのクトゥルフとの関係性は明確にされていないのです。そのため、後の作家たちはダゴンをクトゥルフの配下、あるいはクトゥルフの異名と解釈するなど、様々な独自解釈を生み出しています。

オーガスト・ダーレスはダゴンを独立した神格と見なし、リン・カーターはクトゥルフの配下である小神と位置付け、ヒュドラをその妻とする設定を確立しました。クトゥルフ神話TRPGでは、深きものどもの上位存在として位置付けつつ、クトゥルフの化身である可能性にも言及しています。また、フランシス・レイニーやロバート・M・プライスといった作家は、ダゴンとクトゥルフの同一性を指摘するなど、多様な解釈が展開されています。さらに、ドナルド・タイスンは『ネクロノミコン：アルハザードの放浪』において、ダゴンを「旧支配者の七人の帝」の一員として独自の描写を加えています。

日本のクトゥルフ神話作品においても、ダゴンは独自に解釈され、様々な姿で描かれています。漢字表記も作品によって異なり、「堕魂」や「陀金様」など、多様な表現が見られます。田中文雄の『邪神たちの2・26』では、巨大なナマズのような姿で描かれ、朝松健の『ギガントマキア1945』では真紅の単眼を持つ巨人として描かれるなど、作品ごとに異なる個性豊かなダゴン像が提示されています。

母なるヒュドラ：ダゴンの妻

母なるヒュドラは、ダゴンの妻として知られていますが、父なるダゴンと異なり、単体で物語の中心に据えられることは少ないです。ラヴクラフト自身はヒュドラを直接作品に登場させておらず、その詳細な設定は後の作家たちに委ねられました。

ヒュドラはダゴンと同様、深きものどもに属する存在として描かれることが多いですが、カットナーや田中文雄の作品では、独自の解釈に基づいた、より個性的な姿で描かれています。特に、田中文雄の作品におけるヒュドラは、メドゥーサのような姿で描かれており、独特の存在感を放っています。

まとめ

父なるダゴンと母なるヒュドラは、クトゥルフ神話において重要な役割を担う存在です。両神は、ラヴクラフトによって創造された曖昧な存在像をベースに、後の作家たちによって多様な解釈が加えられ、現在に至るまで様々な姿で描かれ続けています。その多様な解釈こそが、クトゥルフ神話の奥深さ、そして魅力と言えるでしょう。 それぞれの作家が独自の解釈を加えることで、ダゴンとヒュドラは、クトゥルフ神話世界における永遠の謎として、読者やプレイヤーを魅了し続けているのです。

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