深水藤子

深水藤子：時代劇スターの生涯と、スクリーンへの華麗なる回帰

深水藤子（ふかみずふじこ、1916年4月10日 - 2011年12月18日）は、日本の映画史にその名を刻む時代劇スター女優です。本名は安田富士子。画家の伊東深水によって名付けられた芸名「深水藤子」で、戦前の日活京都撮影所で華々しい活躍をみせました。戦後は活動を休止していましたが、林海象監督作品への出演によって、再び人々の記憶に蘇ることとなります。

蕎麦屋の娘から時代劇スターへ

東京で江戸時代から続く蕎麦屋を営む家庭に生まれた深水藤子は、7歳から花柳流舞踊を習い始めました。東京高等女学校に進学するも中退し、1931年、松竹蒲田撮影所に入社。研修生として映画界入りを果たします。「長田富士絵」名義で出演したデビュー作は目立った活躍とはなりませんでしたが、その後、日活太秦撮影所の募集に応募。審査員を務めていた伊東深水の強い推挙を受け、合格者7名の中に選ばれました。そして、伊東深水から「深水藤子」という芸名を授かり、京都への移住を決意します。

日活太秦撮影所時代劇部に入社した深水藤子は、大河内伝次郎主演の『煩悩秘文書』三部作への出演で早くも注目を集めます。その後、現代劇部へ転向し、数々の主演作でその存在感を示しました。日活京都撮影所へ異動後は、稲垣浩監督のトーキー作品『新選組 前後篇』に出演。

山中貞雄との出会い、そして時代劇スターへの登り詰め

1935年、深水藤子は山中貞雄監督作品『丹下左膳余話 百萬両の壺』に出演。その後も山中貞雄監督作品に次々と抜擢され、二人のロマンスが噂されるようになりました。同年公開された『街の入墨者』はキネマ旬報ベストテン2位にランクインするなど高く評価されました。また、稲垣浩監督の大作『大菩薩峠』への出演は、深水藤子を日活時代劇スターの地位へと押し上げました。花井蘭子と並ぶトップ女優として活躍し、1936年のスタジオ開きでは技芸賞を受賞しています。

山中貞雄監督は1937年、『森の石松』を最後に日活を退社。深水藤子は、山中監督との結婚を望んでいたと伝えられています。

戦中・戦後の活動と晩年

山中貞雄監督の死後も、深水藤子は日活の看板女優として活躍し続けました。阪東妻三郎、嵐寛寿郎、片岡千恵蔵といった大スターたちと共演した作品は数多く、日活時代劇黄金期を支える存在でした。1942年、日活が大映に合併したのを機に、深水藤子は26歳で女優を引退します。

戦後、深水藤子は『東海水滸伝』『音楽五人男』などに客演出演するものの、本格的な復帰はありませんでした。1951年には結婚、出産、離婚を経験。

それから約40年後の1986年、林海象監督のデビュー作『夢みるように眠りたい』で女優として電撃復帰を果たしました。1989年には『二十世紀少年読本』にも出演し、再び脚光を浴びました。

2011年、95歳でこの世を去りました。深水藤子の波乱に満ちた生涯は、日本の映画史に燦然と輝く一筋の光として、これからも記憶に刻まれ続けるでしょう。

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