清朝銭

清朝銭：歴史と多様性を映す貨幣

清朝銭とは、1616年から1912年まで続いた清朝時代に流通した銭貨の総称です。これらの銭貨は、単なる決済手段としてだけでなく、当時の政治、経済、文化を映し出す鏡としての役割も担っていました。

清朝銭の歴史

清朝初期には、満洲文字と漢字を併記した銭貨が発行されました。具体的には、1616年に発行された「天命汗銭」や「天命通宝」に始まり、天聡年間には「天聡汗銭」「天聡通宝」が発行されています。これらの初期の銭貨は、満洲族の支配と漢文化の融合を示す貴重な資料となっています。

1644年の順治通宝の発行以降、銭銘は漢字のみとなり、1658年からは背面に漢字と満洲文字で鋳造場所を併記するようになりました。この変化は、清朝が中国全土を支配する過程で、漢文化への適応と支配体制の確立を図った結果と考えられます。その後も、康煕通宝、雍正通宝、乾隆通宝、嘉慶通宝、道光通宝、咸豊通宝、同治通宝、宣統通宝と、元号が変わるたびに新しい銭貨が発行されました。

多様な銭貨

清朝銭は、その種類も多岐にわたります。特に興味深いのが、以下の地域限定で発行された銭貨です。

プル銭（普爾銭）: ウイグル地域で使用するために鋳造された銭貨です。1759年に初鋳され、当初は乾隆通宝の銘が用いられました。材質は青銅よりも純銅に近く、背には満洲文字が刻まれています。1800年には嘉慶通宝も発行されました。

蔵銭: 西蔵（チベット）で使用するために鋳造された銭貨です。1792年に初鋳され、乾隆宝蔵の銘が用いられ、背にはチベット文字が刻まれています。

銅圓（銅元）の登場

19世紀末には、従来の穴銭とは異なる無孔の硬貨である銅圓（銅元）が登場しました。これは「銅板」とも呼ばれ、光緒元宝、大清銀幣、大清銅幣などの銘を持ち、1, 2, 5, 10, 20文などの額面で流通しました。この銅圓は、清朝末期の貨幣制度改革を象徴するものであり、従来の銭貨とは異なるデザインや価値体系を示しています。

その他の銭貨

清朝時代には、太平天国が独自の銭貨（銭銘は太平天国聖宝）を発行したり、スペイン、ポルトガル、フランス、オーストリアなどの外国銀貨も流通していたりしました。これらの事実は、当時の中国の社会や経済が国際的な影響を受けていたことを物語っています。

まとめ

清朝銭は、その歴史的背景や多様性から、中国貨幣史において重要な位置を占めています。それぞれの銭貨には、当時の社会情勢や経済状況、文化が反映されており、これらの銭貨を研究することは、清朝時代の歴史を深く理解する上で不可欠です。満洲文字と漢字の併記から、漢字のみへの変化、地域限定の銭貨の発行、そして新しいタイプの硬貨である銅圓の登場など、清朝銭は、多様な視点から考察できる、非常に興味深いテーマです。

参考資料

京大東洋史辞典編纂会 編『新編東洋史辞典』東京創元社、1980年3月31日。
大鎌淳正『改訂増補古銭語事典』国書刊行会、1997年1月30日。ISBN 4-336-03907-0。
『日本貨幣カタログ2005年版』日本貨幣商協同組合、2004年12月1日。ISBN 4-930810-09-4。
『縮刷東洋歴史大辞典』 中巻、下中彌三郎(編輯)、臨川書店、1986年10月25日（原著1938年）。ISBN 4-653-01469-8。

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