清滝信宏

清滝 信宏（きよたき のぶひろ）

清滝信宏氏は、1955年6月24日に大阪府で生まれた、現代マクロ経済学を代表する日本の経済学者です。現在、アメリカのプリンストン大学で教授を務めています。特に、経済における微小な変動がどのように連鎖反応を引き起こし、広範な景気変動へと繋がるのかを解明する研究で世界的に知られています。その独創的な理論構築は、ノーベル経済学賞の有力候補と目されるなど、国際的に高い評価を受けています。

学歴とキャリアパス

清滝氏の学問への道は、東京教育大学附属中学校・高等学校（現在の筑波大学附属）から始まりました。東京大学に進学し、教養学部を経て経済学部で宇沢弘文氏のゼミに所属。1978年に東京大学を卒業後、アメリカへ渡り、ハーバード大学大学院で経済学のPh.D.を取得しました。この海外での学びが、その後の国際的な活躍の礎となります。

博士号取得後は、アメリカのウィスコンシン大学で助教授、ミネソタ大学で准教授として教鞭を執りました。その後、イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）に移り、10年間にわたり教授として活躍。2006年からはプリンストン大学の教授に就任し、現在に至ります。プリンストン大学へ移籍後もLSEの客員教授を兼任するなど、国際的な教育・研究活動を継続しています。

主要な研究業績

清滝氏の研究は、マクロ経済学の現象を個々の経済主体の行動に基づき説明しようとする「ミクロ的基礎付け」を重視している点が特徴です。ニューケインジアン理論の枠組みの中で、様々な画期的なモデルを提唱しています。

最も著名な業績の一つが、ジョン・ハードマン・ムーア氏と共同で構築した「清滝=ムーアモデル」です。このモデルは、企業の資産価値の変動が信用供与能力に影響を与え、それが投資や生産に波及し、さらに資産価値にフィードバックするという、「信用サイクル」のメカニズムを明らかにしました。小さな金融面のショックが、経済全体に大きな影響を与える可能性を示唆しており、金融危機や景気後退の理解に不可欠なツールとなっています。

また、ランダル・ライト氏との共同研究で提唱された「清滝=ライトモデル」は、貨幣がなぜ存在し、経済活動においてどのような役割を果たすのかを、取引の円滑化という観点から理論的に解明しました。これは、物々交換の非効率性（欲求の二重の一致問題）を克服する上で、貨幣がいかに重要であるかを厳密に示したモデルです。

さらに、オリヴィエ・ブランチャード氏との共同研究では、独占的競争市場における企業の価格設定行動が、総需要の変動にマクロ経済全体としてどのように影響するかを分析しました。この研究は、現代のニューケインジアン・モデルにおける「独占的競争」という前提が導入されるきっかけの一つとなりました。

松井彰彦氏や松山公紀氏らとも、貨幣や国際通貨システムに関する研究を行っています。

経済政策に関する見解

清滝氏は、日本の経済状況や政策についても積極的に発言しています。過去には、日本銀行のデフレ対策の取り組みが不十分であるとして、より積極的な対応を求めたことがあります。また、2016年に導入されたマイナス金利政策については、短期的なデフレ回避の効果を認めつつも、長期的には投資の歪みを生む可能性といった弊害に言及しています。

環太平洋連携協定（TPP）に関しては、中間財貿易の増加という世界の経済構造の変化を踏まえ、日本が世界貿易の枠組みから取り残されないためにも加盟の重要性を主張しています。

栄誉と家系

清滝氏の研究業績は国内外で高く評価されており、日本経済学会の中原賞、ヨーロッパ経済学会のユルヨ・ヨハンソン賞など、数多くの学術賞を受賞しています。特に、2010年には「清滝ムーアモデルの構築」が評価され、トムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞しました。これは、ノーベル経済学賞の有力候補者に贈られることが多い賞です。2020年には日本の文化功労者にも選ばれています。

生家は、大阪府池田市を拠点とした池田銀行（現・池田泉州銀行）の創業家であり、父親の清滝一也氏は同行の元頭取でした。

清滝信宏氏は、その革新的な理論と分析を通じて、マクロ経済学の研究に多大な貢献を果たし、世界の経済学者に大きな影響を与え続けています。

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