松山公紀

松山 公紀

松山 公紀（まつやま きみのり、1957年11月19日 - ）は、国際的に著名な日本人経済学者であり、現在、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市に拠点を置き、ノースウェスタン大学経済学部で教授を務めています。また、2018年12月からは日本の公益財団法人である東京財団政策研究所の所長も兼任しており、研究活動に加え、政策提言の分野でもリーダーシップを発揮しています。

松山氏は、その卓越した研究業績が高く評価されており、1996年には優れた日本人若手経済学者に贈られる中原賞を受賞しました。さらに1999年には、経済学・計量経済学分野における国際的な学術組織であるEconometric Society（計量経済学会）のフェローに選出される栄誉を受けています。

生い立ちと教育

東京都文京区に三人兄弟の末っ子として生まれた松山氏は、地元の文京区立誠之小学校を1970年に卒業後、私立麻布中学校・高等学校へと進みました。麻布での同期には、後に生命科学者として京都大学で活躍する石川冬木氏、ロサンゼルス総領事や各国大使を歴任した外交官の堀之内秀久氏、財務官を務めた山崎達雄氏、国際医療福祉大学理事長の高木邦格氏など、多彩な分野で指導的な立場を担う多くの人物がいます。

1976年、東京大学理科一類に入学。当時の同級生には、後に東京大学総長となる物理学者の五神真氏や、東北大学の斎藤理一郎氏などがいました。数学に強い関心を持ちながらも、自然科学よりも語学や社会の動向に興味を惹かれた松山氏は、文科系への転向を決意します。1978年には教養学部教養学科の国際関係論専攻に進みました。この専攻の同級生にも、多くの優れた人材がいました。外交官としては、欧州局長やロシア大使を務めた上月豊久氏、香港総領事や各国大使を歴任した野田仁氏、国連大使などを務めた山崎純氏、アフガニスタン大使などを務めた高橋礼一郎氏、ジュネーヴ代表部大使などを務めた嘉治美佐子氏らがいます。また、国際政治学者の古城佳子氏（東京大学）、東京大学理事や一橋大商学部教授を務めた江川雅子氏、岡山市長や衆議院議員を務めた萩原誠司氏といった、学術界や政界で活躍する人物も同窓でした。

大学時代、友人に誘われて参加した外交官試験の勉強会で偶然経済学に触れたことが、松山氏のその後の進路を決定づける大きな転機となりました。経済学の奥深さに魅了され、本格的に学び始めます。国家公務員上級試験の経済職に合格するほどの力をつけますが、公務員の道へは進まず、経済学の研究を続けることを選びました。

1980年4月、東京大学大学院経済学研究科に進学。日本の経済学界を代表する小宮隆太郎氏、浜田宏一氏、根岸隆氏、石川経夫氏といった教授陣から指導を受けました。また、大学院在学中に着任した伊藤元重氏、岩井克人氏、後に日本銀行副総裁となる西村清彦氏らからも短期間ながら教えを受けています。当時の大学院には、二年上に後にプリンストン大学教授となり中原賞も受賞する清滝信宏氏、二年下に後に東京大学教授となり中原賞を受賞する神取道宏氏、三年下に後に東京大学教授となり中原賞を受賞する松島斉氏といった、日本の経済学界を牽引する研究者たちが在籍していました。さらに、1982年10月からは留学までの間、日本銀行金融研究所にて客員研究員であった奥野正寛氏（当時横浜国立大教授）のリサーチアシスタントとして実務的な経験も積んでいます。

海外での研究とキャリア

フルブライト奨学生として選ばれた松山氏は、1983年9月にハーバード大学経済学部博士課程へ留学しました。ここでは、ジェフリー・サックス氏、後に世界銀行チーフエコノミストや米国財務長官、ハーバード大学総長を歴任するローレンス・サマーズ氏、現代マクロ経済学の教科書著者として知られるグレゴリー・マンキュー氏ら、世界のトップ研究者たちの指導を受けました。ハーバードでの同級生には、コレージュ・ド・フランスのフィリップ・アギオン氏、2019年にノーベル経済学賞を受賞したMITのアビジット・バナジー氏、ブリュッセル自由大学のマティアス・デュワトリポン氏、ミシガン大学のマイルズ・キンボール氏、後に米国大統領経済諮問委員会委員長となるアラン・クルーガー氏、タイラー・コーエン氏、ダグラス・エルメンドルフ氏、ヌリエル・ルビーニ氏など、国際的に著名な経済学者が多数いました。また、清滝信宏氏もここでも二年上に在籍しており、同じマサチューセッツ州ケンブリッジ市にあるMITの経済学部博士課程には、後にUniversity College Londonや東京大学で教える市村英彦氏や、UCサンディエゴ、スタンフォード大学等を経て東京大学で教え、中原賞を受賞する星岳雄氏らがおり、日本の若手経済学者たちが集い切磋琢磨する環境でした。松山氏は1987年に経済学の博士号（Ph.D. in Economics）を取得しました。

博士号取得後の1987年9月、松山氏はノースウェスタン大学経済学部に助教授として着任しました。当時の同大学院生には、後に東京大学教授となり中原賞を受賞する松井彰彦氏がおり、松山氏との共著論文もあります。1991年9月には准教授、1995年9月には正教授へと昇進し、現在に至ります。この間、1991年度には一年間、スタンフォード大学のフーバー研究所にてNational Fellowとして訪問研究を行いました。研究活動の傍ら、1993年にはシカゴ大学、2008年にはMITで客員教授として教鞭をとった他、世界各国の大学や研究所を頻繁に訪れて短期の客員研究や集中講義を実施しています。近年は、多くの国際学会で基調講演に招待されるなど、その研究成果は世界中の研究者に大きな影響を与えています。

研究分野と業績

松山氏の専門は、国際経済学とマクロ経済学です。東京大学での卒業論文では国際直接投資と多国籍企業に関する研究を行いました。ハーバード大学での博士論文では、将来を見通した経済主体の行動に基づいた経常収支の理論、ゲーム理論を応用した金融政策の国際協調の分析、貿易・産業政策の政治経済学的な側面など、幅広いテーマに取り組みました。

ノースウェスタン大学に就職して以降、研究分野をさらに広げ、国際貿易、経済成長、経済発展、所得格差、産業構造の変化（構造変化）、経済の変動（内生的経済変動）といった分野で数多くの重要な貢献をしています。特に、松山氏の研究が一貫して焦点を当てているのは、資本市場の不完全性（資金調達の難しさや情報の非対称性など）が投資資金の流れに引き起こす歪みや、製品市場の不完全性（企業の市場支配力や不完全競争など）が新しい技術を生み出すイノベーターの利益動機に与える影響です。また、産業部門ごとに生産性の伸び率や、所得が増えたときにその財・サービスに対する支出がどれだけ増えるかを示す「需要の所得弾力性」が異なることが、経済の成長パターン、産業構造の変化、所得格差の発生といった様々な現象を理解する上でいかに重要であるかを、長年にわたり深く探求しています。彼自身の言葉を借りれば、松山氏の研究は「マクロ経済の不安定性、構造変革、そして国・地域・家計間の不平等といった現象の背後にあるメカニズムと、それらがいかに信用市場の不完全性や製品市場の革新と相互作用するかを理解することに関心がある」と言えます。これらの研究成果は多くの学術論文として発表されており、『Econometrica』、『American Economic Review』、『Quarterly Journal of Economics』、『Review of Economic Studies』、『Journal of Political Economy』など、経済学分野の最難関ジャーナルに多数掲載されています。特に、経済成長と内生的変動、構造変化、市場の不完全性と格差に関する論文は、これらの分野の研究に新たな視点をもたらし、その後の研究に大きな影響を与えています。

近年の活動

アカデミアでの活動に加え、松山氏は政策研究の分野でも重要な役割を果たしています。2014年からはキャノングローバル戦略研究所のInternational Senior Fellowを務め、日本の政策課題についても積極的に発言しています。そして2018年12月には、日本のシンクタンクである東京財団政策研究所の初代所長に就任しました。これは、長年海外で世界の経済学研究をリードしてきた松山氏が、日本の政策研究分野の強化に貢献することへの期待の表れと言えるでしょう。

松山公紀氏は、理論経済学における厳密な分析手法を用いながら、現実の経済が抱える重要な課題、特に市場の不完全性がもたらす様々な経済現象の解明に貢献し続けています。教育、研究、そして政策提言といった多岐にわたる活動を通じて、世界の経済学界、そして日本社会に大きな影響を与えている研究者です。

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