ケインジアン

ケインジアン：ケインズ経済学の系譜と現代的意義

イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズの経済理論（ケインズ経済学）を支持する者をケインジアンと呼びます。ケインズ学派とも呼ばれるこの学派は、第二次世界大戦後、アメリカンケインジアンとポストケインジアンという二つの主要な潮流を生み出しました。

アメリカンケインジアン：新古典派総合への統合

アメリカンケインジアンは、ジョン・ヒックスやロイ・ハロッドらケインズの影響を受けた経済学者をルーツとし、ポール・サミュエルソンやジェームズ・トービンらが代表的な人物です。彼らは、ケインズの有効需要理論を新古典派経済学の一般均衡理論の枠組みの中に取り込みました。ヒックスのIS-LM分析はその代表的な成果です。

アメリカンケインジアンは、政府による経済政策、特に有効需要の調整（ファインチューニング）を通じて、完全雇用と経済成長を実現できると考えました。これは新古典派総合と呼ばれるアプローチです。巨大な線形計量経済モデルを用いた経済分析が重視され、ケネディ政権下ではアメリカの経済政策に大きな影響を与え、多くのノーベル経済学賞受賞者を輩出する黄金時代を築きました。しかし、1970年代のスタグフレーション（インフレと失業の同時発生）を経験したことで、その理論的限界が露呈し、マネタリストや合理的期待学派など新しい古典派の台頭によって影響力を失っていきました。

ポストケインジアン：不均衡動学への挑戦

ポストケインジアンは、ジョーン・ロビンソンやミハウ・カレツキを代表人物とし、ケインズの理論をより忠実に継承した潮流です。彼らは、価格メカニズムではなく、ケインズの貯蓄・投資均衡過程の分析に基づき、新古典派とは異なる経済理論の構築を目指しました。当初はケインジアンの主流でしたが、アメリカンケインジアンの台頭により、次第に傍流へと追いやられました。

ポストケインジアンは、経済成長理論、ミクロ経済理論（マークアップ原理、カレツキの設備投資理論）、パシネッティの経済成長理論などで一定の成果を挙げましたが、数理モデル化の難しさや、インフレ対策として所得政策を支持する点などが、政治的な不利要因となりました。しかし、近年は金融危機の再来によって、その金融理論の評価が高まっています。

1980年代以降：ケインジアンの再評価

1980年代以降、レーガン政権下の合理的期待理論の現実経済における破綻を受け、ケインズ経済学の見直しが進みました。ジョセフ・スティグリッツらは市場における情報の非対称性を強調し、モラル・ハザードが金融市場を通じたバブル発生に繋がると指摘しました。また、ケインズの「美人投票理論」を再評価し、市場バブル発生の心理学的分析が盛んに行われるようになりました。

現代のケインジアン：ニューケインジアンとポストケインジアン

現代のケインジアンは大きく分けて、アメリカンケインジアンの流れを汲むニューケインジアンと、ポストケインジアンの流れを汲む現代ケインジアンの二つに分類できます。

ニューケインジアンは、リアルビジネスサイクル理論を基礎としながらも、価格粘着性などのケインズ的な要素を取り入れたモデルを用います。グレゴリー・マンキューなどが代表的な人物であり、アメリカでは主流派経済学の一部を構成しています。一方で、アメリカンケインジアンは、ケインズの一般理論を新古典派経済学の枠組みに押し込めたものだと批判する見方もあります。

ポストケインジアンの流れを汲む現代ケインジアンは、新古典派経済学の前提に疑問を持ち、企業行動、市場心理、金融市場の構造を理論化することで現実経済の不均衡メカニズムを解明しようと試みています。しかし、日本やアメリカでは主流派経済学からは外れており、地方大学などで研究が続けられています。

このようにケインジアン経済学は、その歴史の中で様々な発展、変遷を遂げ、現代経済学においても重要な役割を担っています。その影響は、経済政策のみならず、金融理論や市場分析など、多岐にわたっています。これからも、経済状況の変化に応じて、ケインジアン経済学の新たな展開が期待されます。

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