渡辺和博

渡辺和博：編集者、漫画家、そして「エンスー」の提唱者

渡辺和博（1950年2月26日-2007年2月6日）は、日本の編集者、漫画家、イラストレーター、エッセイストとして多様な才能を発揮した人物です。広島県広島市出身。裕福な薬局を営む家庭で育ち、幼少期からメカニックやオートバイに強い興味を示していました。崇徳高等学校卒業後、東京綜合写真専門学校に進学しますが中退。その後、現代思潮社美学校で赤瀬川原平に師事し、独自の表現方法を磨いていきます。同校在学中につけられた愛称「ナベゾ」は、後に彼の代名詞となります。

漫画家としてのキャリア

1975年、美学校の先輩である南伸坊の誘いで青林堂に入社。伝説的な漫画誌『月刊漫画ガロ』の編集者となり、南伸坊とともに「面白主義」を掲げ、雑誌の方向性を大きく転換させました。編集者としての才能に加え、自らも漫画家としてデビュー。初期はエロティックな作品や、自販機で販売される漫画雑誌への作品投稿など、実験的な活動も展開しました。『ガロ』1980年9月号に発表した「毒電波」は、電波攻撃の被害者をテーマとした作品で、後の「電波系」文化の先駆けとなりました。

青林堂退社後はフリーランスとなり、独特の「ヘタウマ」タッチの漫画とユーモラスなエッセイで人気を博し、多くの雑誌で連載を持ちました。オートバイ愛好家としての経験を生かし、アメリカの老舗オートバイ雑誌「CYCLE WORLD」の日本語版にも連載を持ちました。

「○金・○ビ」と社会現象

1984年、発表した『金魂巻』は、1980年代の職業人に焦点を当てた社会風刺作品です。高収入を得る「○金（まるきん）」と低収入の「○ビ（まるび）」を対比させ、同じ職業内における経済格差をユーモラスに描いたこの作品はベストセラーとなり、「○金・○ビ」は流行語大賞を受賞する社会現象を巻き起こしました。同書は映画化もされましたが、原作とは異なるオリジナルストーリーとなりました。この年の10月から翌年9月まで、フジテレビのバラエティ番組『笑っていいとも！』にレギュラー出演するなど、多方面で活躍しました。

「エンスー」の提唱

自動車雑誌『NAVI』での連載コラムでは、1986年に自動車趣味の人々を表す言葉「エンスー」（エンスージアストの略）を考案。1989年から「エンスーへの道」と題した連載を1997年まで続けました。1994年には『エンスー養成講座』を出版。これらの活動を通して、「エンスー」という言葉は広く一般に普及しました。

私生活と晩年

1980年には、南伸坊夫妻と合同結婚式を挙げました。2003年には肝臓がんと診断され、闘病生活をユーモラスに綴った闘病記『キン・コン・ガン！―ガンの告知を受けてぼくは初期化された』を出版。2005年には妻からの生体肝移植を受けましたが、2006年にがんが再発。2007年2月6日、56歳で亡くなりました。

多彩な交友関係

渡辺和博は多くの著名人と交流がありました。漫画家のみうらじゅん、泉麻人、南伸坊、編集者の末井昭、嵐山光三郎、さらにはミュージシャンの近田春夫など、各界の第一線で活躍する人物たちとの交流は、彼の作品や活動に多大な影響を与えました。

影響とその後

独特のユーモアと鋭い観察眼、そしてメカニックへの深い愛情は、多くの人の心を捉え、多方面に影響を与えました。「エンスー」という言葉は、彼の死後も広く使われ続けています。彼の残した作品や言葉は、現代社会を読み解く上で貴重な資料となっています。彼の死後も、追悼特集が組まれるなど、その業績は高く評価されています。

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