渡辺競

渡辺競（わたなべ の きおう/きそう）は、平安時代末期に活躍した武将であり、源頼政に仕えた家臣として知られています。その出自は、右馬允・渡辺昇（渡辺満の子とされる）、あるいは渡辺播磨次郎省の子という説があります。いずれにしても、父祖代々摂津源氏の郎党であった渡辺氏の一族であり、源頼政の忠実な臣下として、数々の戦でその名を轟かせました。

保元元年（1156年）の保元の乱では、頼政に従って出陣し、その武勇を示しました。治承4年（1180年）の以仁王の挙兵においては、当初、敵方である平宗盛に偽って投降。しかし、これは敵を欺くための策略であり、宗盛が愛用していた名馬『南鐐』を奪い取ると、すぐさま頼政の陣へと馳せ参じました。この時、先に頼政の嫡男である仲綱が、宗盛から愛馬の件で屈辱を受けていたことを知った競は、その報復として、奪った馬のたてがみと尾の毛を剃り落とし、尻には「昔は何両、今は平宗盛入道」という焼印を押して突き返しました。この行為は宗盛を激怒させ、「必ず競を生け捕りにせよ」と命じたと伝えられています。この逸話は『平家物語』にも記されており、競の勇猛さと大胆さを物語るものとして広く知られています。

しかし、競はその後、宇治平等院での戦いで奮戦するも、最後は自害という悲劇的な結末を迎えました。彼の壮絶な最期は、後世に語り継がれることとなりました。

また、競には別の説も存在します。それによると、彼は戦の後に伊賀国阿拝郡島ヶ原村へと逃れ、その子孫が「島ヶ原渡辺氏」あるいは「島ヶ原党」を名乗ったとされています。彼らの家紋は三星下一文字であり、これは競から受け継がれたものとされています。さらに、競の子である馴（なつく）の子孫は、奥州相馬氏の家臣となり、奥州渡辺氏（島ヶ原渡辺氏）としてその血脈を後世に伝えました。

競の人物像は、『源平盛衰記』において、「弓矢取りては並ぶ敵もなく、心も剛く、謀も優れていた。そして何よりも王城第一の美男であった」と描写されています。この記述からも、彼が武勇だけでなく、知略と美貌を兼ね備えた人物であったことが伺えます。渡辺競は、その短い生涯の中で数々の武功を立て、その名は歴史に刻まれました。彼の物語は、平安末期の動乱期における武士の生き様を象徴するものであり、今なお多くの人々に語り継がれています。

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