以仁王の挙兵

以仁王の挙兵：平家打倒の志と、乱世の始まり

治承4年（1180年）、高倉天皇の兄宮である以仁王と源頼政は、平氏政権打倒を目指し、挙兵しました。この事件は、以仁王の挙兵、あるいは源頼政の挙兵とも呼ばれ、治承・寿永の乱の始まりを告げる重要な出来事となりました。

平氏政権の隆盛と朝廷の動揺

保元の乱、平治の乱を経て、平清盛が台頭し、平氏政権が確立しました。清盛は太政大臣にまで上り詰めるなど、権勢を誇示しました。娘の徳子が高倉天皇に入内し、平氏は知行国支配と日宋貿易を通じて莫大な富を蓄積、朝廷内部にも多くの支持者を得ていました。しかし、その専横ぶりは、朝廷内部に反発を生む要因ともなっていました。

摂政・松殿基房と平重盛の紛争（殿下乗合事件）、鹿ケ谷の陰謀など、平氏と朝廷内部の対立は深刻化していました。治承3年（1179年）には、清盛によるクーデター（治承三年の政変）が発生し、後白河法皇は幽閉、関白・基房は配流されるなど、朝廷は平氏によって掌握されました。翌年、高倉天皇の譲位により、徳子の皇子・安徳天皇が即位しますが、わずか3歳であったため、後白河法皇や高倉上皇の院政が不可欠な状況でした。

大衆による両院誘拐計画

安徳天皇即位直後には、園城寺、延暦寺、興福寺の大衆が、後白河法皇と高倉上皇を誘拐し、平家討伐を朝廷に要求しようという計画が持ち上がりました。当時、寺院への武力攻撃は一種の禁忌とされており、この計画は朝廷に大きな影響を与えかねないものでした。しかし、計画は露見し失敗に終わります。この計画は、以仁王が後に園城寺を頼った背景に深く関わっていると考えられます。

以仁王と源頼政：挙兵の背景

以仁王は後白河法皇の皇子でしたが、平氏政権の圧力により、親王宣下を受けられぬまま30歳近くになっていました。安徳天皇の即位により皇位継承の望みは絶たれ、経済基盤であった荘園の一部も没収されました。

源頼政は源頼光の末裔で、京武士として知られ、大内守護を務めていました。保元・平治の乱を経験し、軍事貴族としての地位を築いていましたが、平家全盛下では地味な立場にありました。しかし、清盛の推挙により従三位に叙せられるなど、晩年に至って高い地位を得ました。

挙兵の動機：諸説と解釈

以仁王と頼政が挙兵を決意した動機については諸説あります。『平家物語』では、頼政の嫡男・仲綱と平宗盛の馬をめぐる争いがきっかけとされていますが、頼政の高齢や清盛への恨みの無さなどを考慮すると、信憑性に欠ける部分もあります。以仁王が皇位継承を断念した不満、頼政の仏教信仰に基づく平氏への抵抗、摂津源氏としての立場など、様々な要因が考えられます。

以仁王の令旨と挙兵の露見

治承4年4月9日、以仁王は「最勝親王」を名乗り、諸国の源氏や大寺社に平氏追討の令旨を発しました。令旨は、源行家によって東国に伝えられ、源頼朝らに蜂起を促しました。しかし、計画はすぐに露見し、以仁王は園城寺に逃れました。

宇治平等院の戦い

5月25日夜、頼政と以仁王は園城寺を脱出し、宇治平等院で平氏軍と激突しました（橋合戦）。激戦の末、頼政と以仁王は戦死しました。

以仁王の挙兵とその影響

以仁王と頼政の挙兵は短期間で鎮圧されましたが、その影響は大きく、各地で反平家勢力が蜂起し、治承・寿永の乱が勃発しました。以仁王の令旨は、後世まで反平家勢力の旗印として利用され続け、鎌倉幕府成立の大きな要因の一つとなりました。彼らの短い戦いは、日本の歴史の転換期を告げるものだったのです。

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