一条戻橋

一条戻橋：歴史と伝説が息づく場所

一条戻橋は、京都市上京区、堀川に架かる一条通の橋であり、古くから「戻橋」とも呼ばれています。794年の平安京造営時に、平安京の北端を示す一条大路に架けられたのが始まりで、橋自体は何度も再建されていますが、その場所は創建当時から変わっていません。

歴史的背景

平安時代中期以降、堀川の右岸、つまり右京が衰退したため、堀川を渡ること自体に特別な意味が生まれました。それが戻橋を渡るという行為に結びつき、数々の伝承や風習が生まれる背景となりました。現在の橋は1995年に架け替えられたものですが、近くの晴明神社には、以前の橋の部材を使ったミニチュアが展示されています。

伝承

「戻橋」という名前には、いくつかの由来があります。

三善清行蘇生の伝説: 『撰集抄』によれば、延喜18年（918年）に漢学者・三善清行の葬列が橋を渡る際、父の死を知って帰ってきた息子の浄蔵が棺にすがって祈ったところ、清行が一時的に蘇生したという話。
渡辺綱と鬼女: 『平家物語』には、源頼光の家臣・渡辺綱が戻橋で鬼女に襲われる話が描かれています。綱は鬼の腕を切り落とし、鬼は後に義母に化けて腕を取り返しに来たと言われています。
橋占いの場所: 『源平盛衰記』には、高倉天皇の中宮・建礼門院の出産時に、二位殿が一条戻橋で橋占いをしたという記述があります。安倍晴明が十二神将を橋の下に隠していたという伝説も存在します。

歴史の舞台

戦国時代には、三好長慶の家臣・和田新五郎が細川晴元によって鋸挽きの刑に処されました。安土桃山時代には、豊臣秀吉によって島津歳久と千利休が梟首されるという悲劇も起きました。また、キリスト教禁教令のもと、日本二十六聖人が見せしめに耳を切り落とされた場所でもあります。

その他のエピソード

嫁入り前の女性や縁談に関わる人々は、「嫁が実家に戻る」ことを嫌い、この橋を避けるという風習がありました。
太平洋戦争中には、兵士とその家族が無事に帰還することを祈って、この橋を渡る人が多くいました。
かつて橋のそばには「綱」という名前の遊女がおり、渡辺綱の鬼退治伝説にちなんだ源氏名で呼ばれていました。与謝蕪村も彼女を題材にした句を詠んでいます。

文化との関わり

一条戻橋は、歌舞伎や日本舞踊、常磐津節などの演目にも取り上げられています。

アクセス

京都市営バス「一条戻橋・晴明神社前」バス停からすぐです。

一条戻橋は、単なる橋以上の存在であり、歴史と伝説が織りなす特別な場所です。訪れる人々は、その豊かな物語に触れ、いにしえの京の面影を感じることができるでしょう。

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