湯谷 (庄川水系)

湯谷（ゆたん）

富山県南砺市の五箇山地域に位置する湯谷（ゆたん）は、庄川へと注ぎ込む支流の一つです。この河川は、かつての平村と上平村の境界を成すように流れており、その源を標高約1,726mの人形山に発しています。山間を縫うように流下し、田向（たむかい）集落の西側で庄川本流に合流します。

名称の由来と流域の特性

湯谷という川の名前は、その支流の一つである船頭川の上流部に存在する五箇山温泉の泉源に由来すると考えられています。流域の特性として、この温泉泉源のさらに上流部では、黄鉄鉱の結晶が産出する場所があり、その周辺には五箇山地域では珍しいとされるイワマセンボンゴケの大規模な群落が見られます。

河川の利用と周辺環境

過去には、船頭川との合流点から約2キロメートルほど上流にある大きな堰堤まで、ブナの伐採やその後のスギ造林のために整備された林道が川に沿って通じていました。これは、かつてのこの地域の山林利用の一端を示しています。

五箇山地域を流れる多くの河川と同様に、湯谷もまた非常に流れの速い急流であり、庄川への合流点近くでは、その水が滝のように勢いよく流れ落ちる光景が見られます。これは、地形の急峻さを反映したものです。

交通と歴史的な痕跡

湯谷が合流する庄川の左岸にあたる上梨（うわなし）集落と皆葎（かいもぐら）集落の間は、地質が脆弱で崖崩れが頻繁に発生する危険な箇所として知られています。このため、現在の主要な交通路である国道156号線は、安全を確保するためにこの区間を避けるルートをとっています。具体的には、上梨集落の西側で半円を描くように架けられた「湯出島橋」という高架橋によって、湯谷が庄川に合流する付近の上空を通過する経路が形成されています。

庄川との合流点に近い場所には、田向集落と猪谷（いのたに）集落を結ぶ「湯谷橋」が架けられています。この橋のたもと付近には、地域にとって重要な歴史的な痕跡が残されています。そこには、江戸時代後期に五箇山地域で流行したコレラによって命を落とした多くの人々を弔うための慰霊碑が建立されています。これは、「コレラ病死者の石碑」として知られ、当時の厳しい生活や疫病の脅威を今に伝えるものです。

補足情報

なお、同じ南砺市内には、庄川水系とは別に小矢部川水系にも「湯谷」という同名の河川が存在しており、混同しないよう注意が必要です。

このように、湯谷は単なる河川であるだけでなく、その名称の由来となった温泉、希少な自然、かつての山林利用の痕跡、急峻な地形が生み出す景観、地域の交通路、そして歴史的な出来事を伝える石碑など、多様な側面を持つ五箇山の河川と言えるでしょう。

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