源親行

源親行：鎌倉時代の文人、歌人、そして『源氏物語』研究者

源親行は、鎌倉時代前期に活躍した稀代の文人であり、政治家、古典学者、そして歌人でした。清和源氏義忠流に属し、父は源光行です。光行は政所別当を務めた人物として知られています。親行は、その父譲りの才能と知識を駆使し、多方面で活躍しました。

『源氏物語』研究の継承と「河内本」の完成

親行は、家業であった『源氏物語』の研究を父の後を継いで本格的に行いました。その成果として、後世に名高い「河内本」を完成させたことは特筆に値します。この「河内本」は、現在まで伝わる『源氏物語』の重要な異本の一つとして、研究者の間で高く評価されています。親行の『源氏物語』研究は、単なる家業の継承にとどまらず、古典研究における大きな業績として歴史に刻まれています。

朝廷と幕府への仕え

親行は朝廷においても重要な役職を務めました。河内守や式部大夫といった要職に任じられ、従五位下という位階にまで昇進しています。これは、彼の学識と才能が朝廷から高く評価されていた証左と言えるでしょう。

一方、鎌倉幕府においても、父光行と交代で鎌倉に下向し、源実朝、藤原頼経、宗尊親王の三代に仕えました。さらに、歴代の和歌奉行も務め、幕府の文化政策にも深く関わっていたことがわかります。

時代の波と個人的な苦悩

承久3年（1221年）の承久の乱では、父・光行が院方につきました。親行は、父への助命嘆願を行い、許されたという記録が残っています。これは、親行の人間性と政治的な手腕を物語るエピソードと言えるでしょう。

しかし、貞応3年（1224年）の伊賀氏事件においては、一条実雅の京都送還の際に、仰せによらず私的に扈従したことが原因で、出仕停止と所領の召し放たれという処分を受けています。この出来事は、親行の後半生に影を落とすこととなります。

幅広い交友関係と多様な著作

親行は、藤原定家、源実朝、藤原頼経といった時代の著名な人物たちと親交を深めていました。また、源仲章、源具親、源仲兼、西行など、多くの文人・歌人とも交流を持ち、そのネットワークは広範に渡っていたと考えられます。

彼の著作は多岐に渡り、『源氏物語河内本』（父光行との合作）、『万葉集』『古今集』『新古今集』（いずれも書写注釈書）、『水原抄』（源氏物語の注釈書）、そして『東関紀行』（別説あり）など、数多くの古典注釈書や紀行文を残しています。これらの著作は、親行の博覧強記と、古典に対する深い造詣を示す貴重な資料となっています。

歌人としての側面

親行は歌人としても知られ、『続拾遺和歌集』に以下の歌が収録されています。

さみだれの雲ゐるやまの時鳥晴れぬ思の音をや鳴くらむ
夕されば涙やあまるさをしかの入野のをばな袖ぞ露けき
* 徒らに思ひこがれて年もへぬ人をみぬめの浦の藻しほ火

これらの歌は、親行の繊細な感性と、時代の情勢に対する鋭い洞察力を反映していると言えるでしょう。

まとめ

源親行は、朝廷と幕府に仕え、文人、歌人、古典学者として多大な功績を残した人物でした。特に『源氏物語』研究における貢献は大きく、「河内本」は現在も重要な研究資料となっています。彼の人生は、時代の波に翻弄されながらも、持ち前の才知と人間性で様々な困難を乗り越えていった、波乱に満ちたものであったと言えるでしょう。

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