滝沢武久

滝沢 武久

（たきざわ たけひさ）

日本の心理学者、翻訳家。電気通信大学名誉教授。

生没年：1931年1月9日 - 2015年7月5日

生涯

東京に生まれた滝沢武久は、東京大学教育学部で学び、同大学院に進みました。キャリアの初期には、東京大学新聞研究所の助手を務め、その後、新潟大学で助教授として教鞭をとりました。続いて電気通信大学に移り、助教授を経て1975年に教授に昇任しました。1995年に同大学を定年退官した後は、大妻女子大学の教授として教育・研究活動を続けました。

滝沢氏の学術的な歩みにおいて特筆すべきは、1964年から1965年にかけてフランス政府の招聘留学生としてパリ大学発達心理学研究室へ留学した経験です。この留学中に、彼はスイスの心理学者ジャン・ピアジェの研究に深く触れ、多大な影響を受けました。帰国後、この経験が彼の研究テーマに大きな方向性を与え、発達心理学、特に子どもの思考や認識の発達過程、および教育心理学を専門分野として確立しました。

その長年の功績に対し、没後、叙正四位が授与されました。

研究内容と貢献

滝沢武久氏の研究は、子どもの認知発達を主要なテーマとし、ピアジェ理論に基づいた分析や教育への応用を試みました。彼はピアジェの発達段階論や思考過程に関する研究を深く掘り下げ、日本の教育現場における子どもの理解や指導に貢献しました。また、子どものコミュニケーション能力や社会性の発達、知能といった幅広い側面にも光を当て、その研究成果を多数の著書や論文として発表しました。

翻訳活動

滝沢氏は優れた翻訳家としても知られ、特にジャン・ピアジェやアンリ・ワロンといったフランスの著名な心理学者の主要著作を日本に紹介する上で、極めて重要な役割を果たしました。彼の翻訳によって、これらの先進的な発達心理学の理論が日本の研究者や教育関係者に広く知られることとなり、国内の心理学・教育学の発展に寄与しました。

主な著作

『授業と認識』（明治図書出版, 1962年）
『子どもの思考のはたらき その成長のすじ道と導き方』（大日本図書, 1965年）
『知能指数 発達心理学からみたIQ』（中公新書, 1971年）
『子どもの思考と認識 新しい発達心理学の視点から』（童心社, 1977年）
『子どもの思考力』（岩波新書, 1984年）
『ピアジェ理論からみた幼児の発達』（幼年教育出版, 1984年）
『認知発達の心理学』（白水社, 1982年）
『ピアジェ理論の展開 現代教育への視座』（国土社, 1992年）
『こころの病いと家族のこころ』（中央法規出版, 1993年）
『話しあい、伝えあう 子どものコミュニケーション活動』（金子書房, 1999年）

主な共編著

『子どものものの考え方』（波多野完治共著, 岩波新書, 1963年）
『教育心理学入門』（富田達彦共著, 国土社, 1966年）
『児童心理学』（沢田慶輔共編, サイエンス社, 1980年）
『教育心理学用語辞典』（岸本弘共編, 学文社, 1984年）
『発達と学習の心理』（柴田義松共編, 学文社, 2002年）

主な翻訳

ジャン・ピアジェ

『知能の心理学』（波多野完治共訳, みすず書房, 1960年）
『数の発達心理学』（遠山啓, 銀林浩共訳, 国土社, 1962年）
『思考の心理学 発達心理学の6研究』（みすず書房, 1968年）
『構造主義』（佐々木明共訳, 白水社, 1970年）
『発生的認識論』（白水社, 1972年）
『心理学と認識論』（誠信書房, 1977年）

アンリ・ワロン

『科学としての心理学』（誠信書房, 1960年）
『認識過程の心理学 行動から思考への発展』（大月書店, 1962年）
『子どもの思考の起源』（岸田秀共訳, 明治図書出版, 1968年）

その他、J・アルドワノ、ギイ・セルリェ、ディーンズ、ジョルジュ・カンギレムなどの著作も翻訳しました。

主な論文

「ジャン・ピアジェ (Jean Piaget) - 人と業績」『教育心理学研究』第4巻4号 (1957年)
「アンリ・ワロン - ピアジェ・ワロン論争」（波多野完治らと共著）『カリキュラム』第97号 (1957年)
* 「フランスの発達心理学 - ピアジェ派心理学を中心に -」『児童心理学の進歩・第26巻』（1987年）

滝沢武久氏は、ピアジェ理論をはじめとする発達心理学の知見を日本の教育・研究に導入し、その普及と発展に大きく貢献した研究者、翻訳家として、学界に確かな足跡を残しました。

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