漢中郡

漢中郡の概説

漢中郡（かんちゅう-ぐん）は、古代中国において重要な役割を果たしていた地域です。この郡の名は、後に漢中（かんちゅう）という地名としても広がり、南鄭（なんてい、現在の陝西省漢中市）を中心とする一帯を指すようになりました。漢王朝を創始した劉邦や、「漢民族」・「漢字」といった言葉がこの地に由来されています。

地理的特性

漢中は孤立した盆地であり、秦嶺山脈によって北側が、西安などが位置する渭水盆地（関中）と分けられています。また、南側は大巴山脈で重慶などの四川盆地（巴蜀）に接しています。長江の支流である漢水がこの地域を東西に流れ、東に進むと長江流域へ、西に向かうと甘粛省の天水近くへ出る構造です。

漢水及びその支流の褒水や胥水などが流れる漢中盆地は肥沃な土地として知られていますが、経済的には他の地域に比べて豊かではありません。しかし、関中や巴蜀の勢力にとっては、交通の要所である漢中を抑えることが軍事的に重要視されていました。さらに、広義には蜀や漢中を含む地域のことを指し、狭義の蜀は現在の成都周辺、巴は重慶周辺、漢中はその名の通りです。

歴史の変遷

漢中は古代は梁州に属し、さらに独立した国家も存在しましたが、戦国時代に秦に併合されました。紀元前325年には漢中郡と命名され、南鄭県が郡治として機能し始めました。

この地域は歴史の中で何度も戦略的な重要性を持ちました。例えば、劉邦は漢中に封じられ、ここで国王無双の韓信を見出しました。それによって劉邦は「漢王」と名乗り、帝位に就く際には「漢」という国号を選びました。その後、前漢時代には益州に属し、12の県を治めました。前漢末には10万1570戸、30万0614人の人口があったとされています。

その後の歴史では、王莽の時代に新成郡と改称され、後漢成立に伴い再び漢中郡と呼ばれるようになりました。後漢末には黄巾の乱が起こり、五斗米道の勢力が増大し、張魯が南鄭を漢寧と改名しました。ここでの政治の変動は、劉備と曹操の争いへと繋がり、最終的に劉備が漢中を手に入れることになります。

劉備の死後は、丞相諸葛亮によって漢中が拠点とされ、北伐を行う重要な場所となりました。その後、263年に魏が蜀を滅ぼし、漢中を含む益州を支配下に置きました。魏は265年に晋に乗っ取られ、その後南北朝時代を経て、隋の時代には一時「漢川郡」と改名されましたが、唐の時代になって元の名前に戻されました。

明の洪武帝は1370年に「漢中府」と呼称し、この名称が復活しました。清の時代もこの呼称は続き、1949年に中華人民共和国が成立すると、南鄭を中心とした市が成立しました。1953年には南鄭市が現在の漢中市に改名され、1981年に市制を復活させました。

結論

漢中郡は、地理的及び歴史的に中国において非常に重要な地域でした。この地名は数多くの王朝や歴史的変遷を経て、現在に至るまで多様な意味を持ち続けています。

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