澤鑑之丞

澤鑑之丞（さわ かんのじょう）は、万延元年1月20日（1860年2月11日）に生まれ、1947年（昭和22年）5月21日にその生涯を終えた日本の海軍軍人です。最終的な階級は海軍造兵総監であり、これは後に海軍技術中将と改称された職位に相当します。

彼は、幕末の幕臣であり明治期には海軍教官を務めた澤太郎左衛門の長男として生まれました。明治6年（1873年）11月に軍医予科生徒となった後、明治9年（1876年）9月28日には海軍兵学寮の蒸気機関科に進みました。この選択が、その後の技術畑でのキャリアの基盤となります。

明治14年（1881年）7月、海軍機関士副に任命され、軍人としての道を歩み始めます。同月には艦船「扶桑」に乗務し、その後は「筑紫」乗務、水雷局勤務などを経験しました。明治18年（1885年）6月には海軍少機関士へと昇進。長浦水雷局での勤務や海軍省艦政局での職務を経て、明治20年（1887年）12月には海軍大技士に進級し、艦政局兵器課の課僚を務めました。海軍省第一局第一課の次長、軍務局第二課の課僚などを歴任し、明治27年（1894年）12月には海軍少技監に昇進しました。

さらに、明治29年（1896年）4月には海軍造兵少監に任官し、軍務局兵器課で勤務した後、明治30年（1897年）12月には海軍造兵中監に進級しました。明治32年（1899年）2月には呉造兵廠製造科長に就任し、同年9月には海軍造兵大監へと昇進。明治33年（1900年）2月からは造船造兵監督官としてイギリスへ派遣され、最新技術の調査等にあたりました。二年後の明治35年（1902年）4月に帰国すると、翌月には東京造兵廠長に就任し、その後は海軍造兵廠長を務めます。そして、明治39年（1906年）11月には海軍造兵総監という技術部門の最高位に昇り詰めます。

大正元年（1912年）12月1日には艦政本部への出仕を命じられましたが、翌年1月25日には待命となり、同年7月25日をもって予備役に編入されました。海軍を退いた後も、日本赤十字社の理事を務めるなど、社会的な活動に関わりました。

澤鑑之丞は複数の著作を残しており、その中でも特に知られるものに『海軍七十年史談』があります。この著作の339頁から343頁にかけて、海軍造兵総監であった原田宗介から直接伝えられた話として、国歌「君が代」の歌詞選定にまつわる経緯が記されています。それによれば、明治2年、イギリスからエジンバラ王子が来日した際、イギリス軍楽隊長のフェントンが接伴係に対し、両国の国歌演奏の必要性について問い合わせたといいます。当時、日本には正式な国歌がなかったため、担当の原田が軍務官に尋ねたところ、応対した川村純義からは明確な指示が得られず、「良きに計らえ」という返答にとどまりました。困惑した原田が接伴係に戻り協議した結果、係員の一人である乙骨太郎乙が現在の「君が代」の歌詞を提案。さらに、薩摩琵琶歌の「蓬莱山」という古歌の節を採用し、フェントンに作曲を依頼することで初代の国歌「君が代」が誕生したと、澤は自著に記しています。この澤の記述は、今日でも「君が代」の由来を論じる際に引用されることがあります（例：CD『君が代のすべて』解説書など）。

栄典としては、明治42年（1909年）12月20日に従四位、大正2年（1913年）8月20日には正四位に叙されています。親族には、海軍軍医中佐となった三男の澤義道、海軍大佐の娘婿鈴木乙免、海軍中将の義兄小倉鋲一郎などがいます。また、遠縁に京城電気社長を務めた武者錬三や、古川阪次郎（澤の叔母の夫が古川の叔父にあたる関係）がいました。

その他の著作としては、攻玉社編の『近藤真琴先生伝』に「幼稚舎の思ひ出」として寄稿しており、13歳から通学した攻玉義塾で近藤真琴から教えを受けた思い出を綴っています。また、『輝く軍艦旗』（記念座談と講演）や、『帝国海軍小史』（「明治以後日清戦争まで」の分担執筆）、『海軍兵学寮』といった出版物に関わっています。

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