軍務官

軍務官とは

軍務官は、明治新政府が成立初期に設置した軍事・防衛を司る機関です。1869年（明治2年）に兵部省へと改組されるまでの間、新政府の軍事体制の中核を担いました。本稿では、軍務官に至るまでの新政府初期における軍事防衛担当部門の変遷と、その組織、歴代幹部について詳しく解説します。

軍務官設置までの経緯

海陸軍科の設置

1868年1月3日（慶応3年12月9日）、新政府は総裁・議定・参与の三職を設置し、新たな体制を発足させました。同年2月10日（明治元年1月17日）、三職の職制が定められ、七科制が導入されます。この際、海陸軍の部署として海陸軍科が設置されました。海陸軍務総督には議定から、海陸軍務掛には参与からそれぞれ就任し、練兵、守衛、緩急、軍務などを担当しました。

軍防事務局への移行

1868年2月25日（明治元年2月3日）、三職七科制は改められ、三職八局制へと移行します。この際、海陸軍科は軍防事務局に改編されました。仁和寺宮嘉彰親王が軍防事務局督に就任し、その下に輔と判事が置かれ、軍事行政を担いました。

軍務官の設置

1868年6月11日（明治元年閏4月21日）、三職八局制は太政官七官制へと移行し、新たに軍務官が設置されました。軍務官は、郷兵、招募、守衛、軍備などの事項を担当しました。初代知事には仁和寺宮嘉彰親王が就任しました。軍務官の組織は、海軍局、陸軍局の二局と、築造司、兵船司、兵器司、馬政司の四司で構成されました。海軍局と陸軍局には、それぞれ一等から三等の海軍将、陸軍将が置かれ、後の兵部省における大将、中将、少将へと繋がる官職が設けられました。軍務官の役所は、旧京都守護職屋敷に置かれました。

軍務官から兵部省へ

1869年8月15日（明治2年7月8日）、官制の大改正により二官六省制が導入され、軍務官は兵部省へと再編されました。これにより、軍務官は名実ともに新政府の軍事組織としての役割を終え、その跡地には京都府庁が移転しました。

歴代幹部

以下に、軍務官およびその前身である海陸軍科、軍防事務局の歴代幹部をまとめます。日付は旧暦、括弧内は新暦です。

海陸軍科

海陸軍務総督（議定）
仁和寺宮嘉彰親王：1868年2月10日（明治元年1月17日） - 3月13日（2月20日）
岩倉具視：1868年2月10日 - 3月13日
島津忠義：1868年2月10日 - 3月13日
海陸軍務掛（参与）
広沢真臣：1868年2月10日（明治元年1月17日） - 3月2日（2月9日）
西郷隆盛：1868年2月10日 - 3月7日（2月14日）
土倉正彦：1868年2月17日（明治元年1月24日） - 2月29日（2月7日）
林通顕：1868年2月18日（明治元年1月25日） - 3月7日（2月14日）
吉井友実：1868年2月22日（明治元年1月29日） - 3月13日（2月20日）

軍防事務局

督
仁和寺宮嘉彰親王：1868年3月13日（明治元年2月20日） - 6月11日（閏4月21日）
輔
鍋島斉正：1868年3月25日（明治元年3月2日） - 4月1日（3月9日）
長岡護美：1868年3月2日 - 6月11日（閏4月21日）
権輔
烏丸光徳：1868年2月20日 - 6月11日（閏4月21日）
判事
津田信弘：1868年2月20日 - 6月11日（閏4月21日）
吉井友実：1868年2月20日 - 6月11日（閏4月21日）
吉田良栄：1868年2月20日 - 6月11日（閏4月21日）
土肥修平：1868年2月20日 - 6月11日（閏4月21日）
大村益次郎：1868年5月19日（明治元年4月27日） - 6月11日（閏4月21日）

軍務官

知事
仁和寺宮嘉彰親王：1868年6月11日（明治元年閏4月21日） - 1869年8月15日（明治2年7月8日）
副知事
長岡護美：1868年6月11日（明治元年閏4月21日） - 1869年6月16日（明治2年5月7日）
大村益次郎：1868年12月7日（明治元年10月24日） - 1869年8月15日（明治2年7月8日）
有馬頼咸：1869年3月24日（明治2年2月12日） - 6月16日（5月7日）
判事
吉井友実：1868年6月11日（明治元年閏4月21日） - 1869年7月1日（明治2年5月22日）
大木喬任：1868年6月18日（明治元年閏4月28日） - 8月29日（7月12日）
大村益次郎：1868年6月26日（明治元年5月7日） - 12月7日（10月24日）
長谷川景隆：1868年7月1日（明治元年5月12日） -
十時維恵：1868年7月1日（明治元年5月12日） - 7月22日（6月3日）
桜井直養：1868年7月22日（明治元年6月3日） - 1869年8月15日（明治2年7月8日）
海江田信義：1868年10月8日（明治元年8月23日） - 1869年3月4日（明治2年1月22日）
河田景与：1869年2月28日（明治2年1月18日） - 8月15日（7月8日）

参考文献

海軍歴史保存会編『日本海軍史』第1巻、発売:第一法規出版、1995年。
三浦裕史『近代日本軍制概説』信山社、2003年。
外山操・森松俊夫編著『帝国陸軍編制総覧』芙蓉書房出版、1987年。
秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年。

関連項目

明治維新
近代日本の官制
* 大日本帝国陸軍の歴史

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