瀬川如皐 (3代目)

三代目瀬川如皐：才能と苦悩の幕末・明治歌舞伎作者

三代目瀬川如皐（せがわ じょこう、1806-1881）は、幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎作者です。本名は六三郎。俳名に吐蚊、雅号に二五社・藪雀庵を持ち、その生涯は才能と苦悩が複雑に絡み合ったものでした。

呉服商から歌舞伎作者へ

江戸で呉服商を営んでいた如皐は、天保10年（1839年）に絞吉平の名で河原崎座に入り、歌舞伎の創作活動を開始します。その後、五代目鶴屋南北に師事し、四代目中村歌右衛門の後援も得て活動の幅を広げました。藤本吉兵衛、澤村吉兵衛といった名も使用し、嘉永元年（1848年）には中村座の立作者となり、嘉永3年（1850年）に三代目瀬川如皐を襲名しました。

代表作と独特の作風

如皐は、主に八代目市川團十郎や四代目市川小團次のために多くの作品を創作しました。代表作に『与話情浮名横櫛』（通称『切られ与三』）、『東山桜荘子』（佐倉義民伝）、『新台いろは書始』（のちに『松浦の太鼓』として改作）などがあります。『切られ与三』では、河竹黙阿弥に先駆けて七五調の台詞を使用し、幕末の生世話物狂言の発展に貢献しました。『佐倉義民伝』は、日本最初の農民劇として知られています。他にも、『乗合舟』『競獅子』などの舞踊の作詞や合巻の著作も手掛けています。

如皐は几帳面で、創作性にも優れていましたが、その作風は独特でした。台本の書き直しが多く、字が小さく、指示が細かすぎるため、役者や観客からは不評でした。作品自体も冗長で、彼の潔癖な性格が作品にも反映されていたのかもしれません。私生活でも、自宅は常に清潔に保たれ、少しでも汚れがあると激しく怒るほどでした。

晩年と評価

嘉永7年（1854年）、小團次が河原崎座に移籍し、黙阿弥と組むようになると、如皐の立場は変化します。代わりに如皐と組んだ四代目中村芝翫が丸本物を得意としたため、生世話物を専門とする如皐との相性が悪く、筆力は衰えていきました。それでも、三代目澤村田之助のために『蠎阿由曙仇討』（うわばみお由）などの佳作を創作しましたが、明治時代に入ると新時代の流れに対応できず、黙阿弥の人気にも押されて、二流の芝居小屋での活動が中心となりました。

才能がありながら、歌舞伎作者として大成することはありませんでしたが、鶴屋南北と黙阿弥の間の時代を繋ぐ重要な存在として、現在も評価されています。その生涯は、時代の変化と自身の個性との葛藤、そして才能と不遇が複雑に絡み合ったものでした。墓所は向島弘福寺です。四代目瀬川如皐は彼の親戚にあたります。

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