火の路

小説『火の路』について

松本清張が手がけた長編推理小説『火の路』は、古代史をテーマにした代表的な作品です。この小説は1973年から1974年まで、朝日新聞に連載された後、1975年に文藝春秋から書籍として刊行されました。物語はパフラヴィー朝末期のイランを重要な舞台とし、飛鳥時代のゾロアスター教徒の伝来説を描いています。この時期、発見された高松塚古墳の壁画により古代史への関心が高まっており、作中の大胆な仮説も相まって大きな話題を呼びました。また、1976年にはテレビドラマ化もされ、さらなる注目を集めました。

あらすじ

物語は、奈良県明日香村の石造遺跡を取材中のカメラマン、坂根要助が、石造遺跡に真剣に向き合う若い女性、高須通子に出会うところから始まります。通子は東京の国立大学で日本古代史を学び、助手を務めながら非常勤講師もしています。彼女は独自の視点で研究に取り組んでいるものの、古い学閥を重んじる教授たちからは煙たがられています。

ある日、通子は散歩中に法華寺の近くで男が刺される現場を目撃します。被害者は海津信六という男で、彼はもともと歴史学の有望な学生でしたが、現在は保険の勧誘員として働いています。通子は彼に同情し、供血しようと決意しますが、病院に向かう途中に再び坂根と出会います。

坂根は報道で耳にした海津の過去に興味を持ち、彼の周囲の人間関係について疑問を抱くようになります。一方、高須通子は海津から供血のお礼を兼ねた手紙を受け取り、彼との交流を通じて自らの理論を整理し、日本とイランの歴史についての興味を深めていきます。

主な登場人物

• - 高須通子: 東京の国立大学で日本古代史を研究する若手学者。ユニークな発想で知られるが、伝統的な学内の慣習には苦しさを感じている。
• - 坂根要助: フリーのカメラマンで、長髪の童顔。文化雑誌の取材を通じて通子と出会い、彼女の研究に興味を持つ。
• - 海津信六: 過去には歴史の優秀な学生だったが、現在は保険業界で働く。通子と坂根の助けで命を取り留め、彼女との文通を通じて新たな発見をする。
• - 村岡亥一郎: 古代の普茶料理屋を奉仕している。
• - 稲富倶子: 留学を夢見ている大学生。
• - 福原庄三: 雑誌副編集長で、文化領域の仕事に関わる。

執筆の背景

『火の路』の執筆にあたって、松本清張は様々な資料を調査しました。文藝春秋が支援を提供する中、テーマの特殊性から、担当の新聞記者は「難しい」と繰り返していたといいます。それでも、この作品は予想を上回る人気を博し、発表直後には増刷がかかりました。

清張は、考古学者たちとの交流が作品に大きな影響を与えたことを回顧しています。特に藪田嘉一郎氏との往復書簡は、作品に深みを与えました。

このように、『火の路』は松本清張が古代史の研究を深める中で、他の著作にも影響を与えた重要な作品です。続編的な内容を持つ『ペルセポリスから飛鳥へ』を発表し、更なる考察を展開しています。また、彼の作品は古代史・宗教に関連する作品にも繋がっており、その影響力は現在にも及んでいます。

テレビドラマ

『火の路』は1976年にNHKでドラマ化され、視聴者からも好評でした。主演には栗原小巻や芦田伸介を迎え、全7回の連続放送が行われました。ドラマの内容は原作のエッセンスを活かしつつ、視聴者を引き込む演出が施されています。

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