無動寺 (大津市)

無動寺：比叡山の歴史と信仰の深淵を刻む寺院

滋賀県大津市坂本本町に位置する無動寺は、天台宗に属する寺院です。比叡山延暦寺の東塔無動寺谷にある塔頭であり、山号を比叡山と称します。延暦寺五大堂の一つとして知られ、本尊は不動明王です。正式には無動寺明王堂と呼ばれ、千日回峰行の重要な拠点として、古くから修験道の霊場として崇められてきました。東塔の一谷に位置しながらも、その格は別格で「南山」と呼ばれ、比叡山における特別な地位を占めていると言えるでしょう。

無動寺谷には、明王堂以外にも大乗院、法曼院、弁天堂などの建造物が点在し、静寂の中に歴史の重みを感じさせる独特の雰囲気を醸し出しています。

歴史：平安時代から現代まで続く信仰の灯

無動寺の創建は平安時代前期の貞観7年（865年）にまで遡ります。延暦寺の僧侶であり、千日回峰行の開祖として名高い相応和尚（建立大師）によって建立されました。相応和尚は、葛川明王院の東にある三ノ滝で不動明王を感得し、自ら本尊の不動明王像を彫り上げたと言われています。

元慶6年（882年）には、陽成天皇の勅により天台別院（天台南岳別院）に指定され、その地位は不動のものとなりました。院政期には住持となった寛慶が寺院の地位を高め、東塔から自立。東塔、西塔、横川と並ぶ発言力を持つまでに発展しました。寛慶は、当時の天台座主仁豪の権力集中に反対する勢力の中心人物となり、永久の強訴においては、清水寺破却に対する仁豪の責任を追及し、延暦寺内で内紛を引き起こすなど、その存在感は絶大でした。後に寛慶自身も天台座主に補されています。

その後、寛慶の後を継いだ天台座主行玄が自らの拠点を青蓮院に移したことが、後の「青蓮院門跡」の起源となりました。

元亀2年（1571年）9月、織田信長による比叡山焼き討ちで無動寺は全焼しましたが、天正年間（1573年～1592年）に再建されました。天保14年（1843年）の大火でも焼失しましたが、その後再び再建され、現在に至っています。

無動寺明王堂の本尊である不動明王像には、「輪番」と呼ばれる僧侶が仕えています。この輪番を務めるのは、千日回峰行を満行した大阿闍梨か、回峯行中の阿闍梨に限られています。この厳格な伝統は、無動寺の信仰の深さと、千日回峰行の重要性を象徴しています。葛川明王院は無動寺の奥の院として、信仰の対象となっています。

境内：歴史と信仰が息づく空間

境内には、本堂である明王堂、客人宮、相応和尚像、鐘楼、庫裏などの建物が点在しています。明王堂に安置されている不動明王像は、相応和尚が自ら彫り上げたものと伝えられています。また、近畿三十六不動尊霊場の26番札所にも指定されており、多くの巡礼者たちが訪れています。

アクセス：比叡山の歴史に触れる旅へ

無動寺へのアクセスは、比叡山鉄道線ケーブル延暦寺駅下車後、南へ徒歩約10分です。比叡山への観光と合わせて、歴史と信仰に彩られた無動寺を訪れてみてはいかがでしょうか。

関連情報

所在地: 滋賀県大津市坂本本町4220
前後の札所: 近畿三十六不動尊霊場 25 円満院 - 26 無動寺明王堂 - 27 葛川息障明王院
関連項目: 天台南山無動寺建立和尚伝、葛川明王院、神ノ木弁財天（京都市右京区）
外部リンク: 近畿三十六不動尊霊場会 FaceBook

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