フーズ・ネクスト

ザ・フー『フーズ・ネクスト』：革新と挫折が生んだロック史に残る傑作

『フーズ・ネクスト』は、1971年にザ・フーが発表した5枚目のオリジナルアルバムであり、全英1位、全米4位を記録する大成功を収めました。1969年の『トミー』以来2年ぶりのオリジナルアルバムとして、バンドにとって初のチャート1位獲得作品となり、『トミー』と本作の成功によって、ザ・フーの人気は不動のものとなりました。

ヘヴィサウンドとシンセサイザーの融合

本作は、前作『ライヴ・アット・リーズ』で聴かせたバンドのヘヴィなサウンドをスタジオで再現し、ハード・ロックの一つの極致に達したと評価されています。さらに、シンセサイザーやシーケンサーを初めて導入し、プログレッシブなサウンドを取り入れたことも大きな特徴です。「ババ・オライリィ」や「無法の世界」といった楽曲は、その成果を象徴しています。一方で、「ラヴ・エイント・フォー・キーピング」や「ゴーイング・モービル」のようなサザン・ロックの影響を感じさせる楽曲も収録されており、アルバム全体として色彩豊かな内容となっています。

幻のプロジェクト「ライフハウス」

当初、本作は『トミー』に続くロック・オペラ第2弾「ライフハウス」として発表される予定でした。「ライフハウス」は、単なるスタジオアルバムに留まらず、オペラ、演劇など、全てを包括した聴衆参加型の壮大なプロジェクトとして構想されていました。1970年から楽曲制作はスタートし、一部はライブでも演奏されていましたが、マネージャーのキット・ランバートが興味を示さなかったことや、ピート・タウンゼントが書いた脚本があまりにも難解だったことが原因で、プロジェクトは頓挫してしまいます。

しかし、この頓挫が結果的に『フーズ・ネクスト』という傑作を生み出すことになります。ミキシングのために呼ばれたグリン・ジョンズが「ライフハウス」のコンセプトを破棄し、楽曲を厳選してアルバムを制作することを提案し、タウンゼント以外のメンバーが賛同。こうして、本作は「コンセプトを持った曲によるノン・コンセプト・アルバム」として制作されることになりました。

妥協と創造性の狭間で

『フーズ・ネクスト』に収録された楽曲は、ジョン・エントウィッスルが書いた「マイ・ワイフ」を除き、すべて「ライフハウス」のために書き下ろされたものです。当初は2枚組としてリリースする予定でしたが、最終的に9曲に絞り込まれました。タウンゼントは当初、妥協の産物である本作を嫌っていましたが、後に「俺の頭が最も冴えて、最も能力に満ちていた時期だった」と語るほど、当時の彼らのクリエイティビティは頂点を極めていました。

アルバムジャケットの裏話

アルバムジャケットは、メンバーがコンクリート壁に放尿した後、ズボンのファスナーを上げているという衝撃的な写真で、イーサン・ラッセルが撮影しました。当初はもっと下品な案もあったそうですが、最終的にこの写真が採用されました。撮影場所は、イギリス・ダービーシャー州にある炭鉱の残土の山に設けられた壁で、現在は農場の中にあり、壁の上部しか見ることができません。

リイシューと収録曲

1995年には未発表曲などを追加収録したリマスター版が、2003年にはニューヨーク・レコード・プラント・セッションやヤング・ヴィック・シアターでのライブを収録したデラックス・エディションがリリースされています。オリジナル版には、「ババ・オライリィ」「バーゲン」「ラヴ・エイント・フォー・キーピング」「マイ・ワイフ」「ソング・イズ・オーヴァー」「ゲッティング・イン・チューン」「ゴーイング・モービル」「ビハインド・ブルー・アイズ」「無法の世界」が収録されています。

『フーズ・ネクスト』は、ザ・フーの音楽的な革新性と、幻となったプロジェクト「ライフハウス」の挫折が融合した、ロック史に残る傑作として、今もなお多くの音楽ファンに愛され続けています。

もう一度検索