熊谷二郎

熊谷二郎：黎明期のボクシング界を彩ったスター

熊谷二郎（くまがい じろう）は、1909年（明治42年）4月8日に青森県で生まれ、1943年（昭和18年）に生涯を閉じた元プロボクサーです。日本のボクシングが黎明期を迎えていた時代に、その卓越した才能と不屈の精神で、多くのファンを魅了しました。中津軽郡西目屋村で生まれた熊谷は、日本拳闘倶楽部に入門し、その才能を開花させました。

アマチュアでの成功とプロへの転向

1926年（大正15年）に開催された第1回全日本アマチュア拳闘選手権大会では、見事優勝を果たし、その名を轟かせました。この活躍を機に、熊谷はプロボクサーとしての道を歩み始めます。

1930年（昭和5年）2月、アメリカ遠征中にプロデビュー戦を迎えましたが、この試合では4回判定負けを喫しました。しかし、このデビュー戦の相手は、後に世界チャンピオンとなり、「鉄人」ヘンリー・アームストロングと死闘を繰り広げることになるバーニー・ロスでした。この経験は、熊谷にとって大きな糧となったに違いありません。

国内での活躍と「拳闘の神様」

帰国後、熊谷は連戦連勝を重ね、平川末男、ボビー・ウィルス、植村竜郎、佐藤東洋ら、当時の強豪たちを次々と打ち破り、一躍人気者となりました。特に、ボビー・ウィルスとの初戦は、熊谷の名を不動のものとしました。1931年1月27日、日比谷公会堂で行われたこの試合で、熊谷は日本人選手として初めてボビーを8ラウンド1分30秒TKOで下しました。前年にボビーとの試合で小林信夫が亡くなって以来、誰もがそのパンチを恐れて対戦を避ける中、熊谷が勇敢にも立ち向かい、勝利を収めたのです。この勝利によって、熊谷は「拳闘の神様」と称えられるようになりました。しかし、彼は生涯、タイトルとは無縁でした。

その後、熊谷はボビーと4度にわたり対戦し、6ラウンド中止、3ラウンド反則負け、3ラウンドKO勝利、10ラウンド判定勝利という結果を残しました。1934年2月14日に行われた6戦目にも判定勝利を収め、その度に、満員の観客から熱狂的な歓声が送られました。

「ゴムまり戦法」と引退後の生涯

熊谷は、新聞配達や人力車夫の経験で培われた強靭な脚力とスタミナを活かし、「ゴムまり戦法」と呼ばれる華麗なフットワークを駆使して戦いました。その独特なスタイルは、観客を大いに魅了しました。

引退後、熊谷は満州に渡りましたが、1943年（昭和18年）に発疹チフスのため、33歳という若さで亡くなりました。プロとしてのキャリアはわずか5年間でしたが、通算88戦をこなしました。その短い期間の中で、彼は日本のボクシング史に名を刻む偉大な選手となったのです。

獲得タイトル

第1回全日本アマチュア拳闘選手権大会ウェルター級優勝

参考文献

弓館小鰐『スポーツ人国記』 ポプラ書房 1934年

関連項目

男子ボクサー一覧
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