熊野丸

熊野丸（くまのまる）

熊野丸は、第二次世界大戦中に大日本帝国陸軍によって建造された揚陸艦であり、同時に軽空母としての性質も兼ね備えています。この艦船は、後の強襲揚陸艦の先駆けとも言える存在で、特に上陸作戦において航空機の運用能力が求められました。熊野丸は、陸軍特種船の改良型であり、特に上陸支援に特化した設計が施されていますが、完成は1945年の3月となり、実戦に投入されることのないまま終戦を迎えました。

建造の背景

日本陸軍は、地理的な制約から渡洋作戦や上陸戦への関心が高く、初期の段階では大日本帝国海軍の航空母艦に頼っていました。しかし、海軍が主に制空権を確保する役割を担う中で、陸軍は自己完結的に航空支援を行うための空母の必要性を認識しました。このような背景の下、1930年代に入り、陸軍特種船と呼ばれる揚陸艦の研究と建造が進められました。

最初の艦船、神州丸は1934年に竣工しましたが、発進した飛行機は敵が占拠する飛行場や海上への不時着が前提でした。その後、あきつ丸が建造され、飛行甲板や格納庫を備えた艦が現れましたが、その技術には限界もありました。太平洋戦争が開始されると、揚陸艦艇の需要が急激に高まり、特に戦時標準船の建造が計画されました。このプロジェクトの中で、熊野丸は新たに設計されることとなりました。

熊野丸の設計と特徴

熊野丸は、海軍の協力を得て設計され、先行艦に比べてより洗練された航空機運用機能を備えています。全通式の飛行甲板を有し、海軍の商船改造空母に似た構造が採用されました。また、発進口が船尾に配置されており、兵員を搭載した大発動艇を効率的に発進させることが可能でした。航空機運用の機能が大幅に向上した熊野丸では、特に対潜哨戒機の搭載も計画され、八八式七糎野戦高射砲と対空機銃も装備される予定でした。

しかし、実際には1945年3月に竣工したにもかかわらず、戦況の悪化により一度も実戦に出ることはなく、艦船砲兵の訓練用に留まることが多かったとされています。やがて、大戦の終結後、この艦は引揚船として改装されることになりました。艦体に施された変更では、煙突の位置が変更されたほか、収容能力を強化するための改装が施され、最大で約4,000人の乗員を収容できるようになりました。

引揚船としての運用

終戦後、熊野丸は復員兵や引揚者の輸送に用いられました。記録によれば、同艦は1946年にショートランド諸島から3,610人の復員兵を輸送したほか、ジャワ島やビルマなどへも派遣されました。その後、引揚船としての任務が落ち着くと、最終的には解体される運命が待っていました。1947年までに解体工事が進められ、最終的に約3,800トンのスクラップとなりました。

同型船とその後

熊野丸と同じくM丙型特種船として計画されたとき、同様の艦船であるときつ丸が建造されましたが、こちらはデザインの変更を経て貨物船へと転用されたため、熊野丸とは異なる運命を辿りました。こうした一連の歴史を通じて、熊野丸は日本陸軍における航空母艦の中でも特異な存在感を持った艦船として記憶されています。

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