燃える人の舞踏会

燃える人の舞踏会：14世紀フランス宮廷の悲劇

1393年1月28日、パリのサン・ポール館で催された華麗な仮装舞踏会は、想像を絶する悲劇へと発展しました。これは単なる事故ではなく、フランス王シャルル6世の治世、そして14世紀末のフランス社会を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

事件の概要

この舞踏会は、シャルル6世の王妃イザボー・ド・バヴィエールが、ある女官の再婚を祝して開催したものでした。王自身も、5人の高貴な騎士と共に「野蛮人」に扮し、松脂を塗布した衣装を身につけ、仮面をかぶってダンスを披露しました。しかし、シャルル6世の弟ルイ・ド・ヴァロワが持ち込んだ松明が火種となり、可燃性の衣装に引火。6人の踊り手のうち4人が焼死するという惨事となりました。シャルル6世ともう1人は奇跡的に生き残りました。

事件の背景：シャルル6世と不安定な時代

この悲劇を理解するには、シャルル6世の治世と、当時のフランス社会の状況を理解する必要があります。12歳で即位したシャルル6世は、若年であったため、当初は叔父たちが摂政を務めていました。しかし、成人後、彼は親政を開始し、強固な中央政府の樹立を目指しました。しかし、シャルル6世は生涯にわたる精神疾患を抱えており、即位後まもなく最初の発作に見舞われました。この精神疾患は、彼の統治に大きな影を落とし、宮廷の混乱を招きました。

シャルル6世の精神状態の不安定さは、宮廷における贅沢と享楽主義を助長しました。王妃イザボーと彼女の義理の姉ヴァランティーヌ・ヴィスコンティは、豪華な衣装を身につけ、贅沢な生活を送っていました。民衆は、王室の浪費と堕落に不満を抱き始めていました。

舞踏会の惨劇とその後

「燃える人の舞踏会」は、まさにこの不安定な状況の中で発生しました。伝統的な風習である「シャリバリ」を踏襲した、陽気な騒ぎのはずが、一瞬にして悲劇に転じたのです。可燃性の衣装と不注意な行動が、取り返しのつかない結果を招きました。

この事件は、民衆の怒りを爆発させました。王の安全が脅かされたことに激怒した民衆は、宮廷の堕落を強く非難し、王と王族は罪を償うため、公衆の面前で悔い改めの行いを強いられました。

歴史的記録と解釈

この事件は、ジャン・フロワサールやミシェル・パントワンといった当時の年代記作者によって記録されています。彼らの記述には若干の違いがあり、舞踏会の様子や、事件の責任の所在についての解釈に差異が見られます。しかし、いずれの記録もこの悲劇の深刻さを伝え、シャルル6世の精神状態や宮廷の雰囲気を反映しています。

15世紀には、これらの記録をもとに、多くの装飾写本が作成され、事件の様子が絵画として描かれました。これらの絵画は、当時の社会状況や美術様式を反映する貴重な資料となっています。

舞踏会の遺産

「燃える人の舞踏会」は、シャルル6世の治世における重要な転換点となりました。この事件は、シャルル6世の精神疾患を悪化させ、宮廷の不安定さを増幅させました。また、民衆の不満を増大させ、ブルゴーニュ派とアルマニャック派の対立を激化させ、百年戦争後のフランスを長く揺るがす内乱の遠因ともなりました。この事件は、単なる事故としてだけでなく、フランスの歴史における重要な分岐点として、現代においても研究されています。エドガー・アラン・ポーによる短編小説『跳び蛙』への着想源となったことからも、この事件が後世に与えた影響の大きさが伺えます。

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