燈台鬼 (小説)

燈台鬼（とうだいき）

概要

『燈台鬼』は、南條範夫による短編の時代小説であり、1956年に『オール讀物』で発表され、同年に第35回直木賞を受賞した作品です。物語は、遣唐使の父子の悲劇を中心に展開し、主人公の燈台鬼とその息子は実在の歴史上の人物小野石根と小野道麻呂に置き換えられています。

作家である南條は、友人の勧めで創作を始め、いくつかの小説が懸賞に当選したことから編集者から執筆依頼を受けるようになりました。しかし、経済学者としての本業の執筆も並行しており、小説を書く時間が限られていました。ようやく経済書『日本金融資本論』を完了させた後、平康頼の『宝物集』に登場する「灯台鬼」の伝説を基に執筆を進めることとなりました。作品が評価される中で、南條は作家活動を本格化させ、「残酷時代小説」と呼ばれるスタイルの発展に寄与します。

あらすじ

物語は、唐代の大暦14年3月、長安の蓬莱宮における日本遣唐使の小野石根の発言から始まります。彼は、「新羅よりも日本の席次が低くされることは受け入れられない」と叫び、新羅の使者との間に緊張が走りました。唐側は事態を受けて、早急に日本の使節に都を離れるよう指示します。

出発を控えた石根は、高階遠成とともに長安の外を散策中、謎の男たちに襲われます。意を決した石根は自ら立ち向かい、遠成を守ろうと奮闘しますが、男たちに捕らわれる寸前、無事に助けが間に合います。残念ながら石根は、その後海難事故によりそのまま行方不明になってしまいます。

石根の妻である衣子は、彼の名誉のため海での事故として処理されていることを知りながら、生存を信じ続け、孤独に過ごします。3年後、戻ってきた遠成は衣子に真実を伝え、息子の道麻呂は父を見つけるために遣唐使に参加することを決意します。

道麻呂と遠成は、遣唐使船の一員として唐に赴くことになります。長安に到着した彼らは、石根の足取りを掴むために努力を重ねますが、手がかりは見つかりません。やがて帰国が近づく中、揚州節度使の陳大勉に別れの宴が催され、道麻呂は母が贈った歌を歌い始めます。すると、部屋の隅にあった燭台の一つが微動した瞬間を目の当たりにします。

その燭台の下には、60歳の老いた男が鞭で打たれており、道麻呂は彼が父石根であることを確信しました。彼は、逃げる口実を用いて父を助け出すことに成功します。石根は長い間、燈台鬼としての存在を強いられながらも、故郷と家族への思いを昇華させようとしていました。彼はついに自らの名前を記し、道麻呂との再会を果たします。

しかし、石根の心はすでに限界に達しており、再び自ら命を絶つ決意を固めてしまいます。彼が海に身を投じた後、道麻呂は父の詩を読み上げ、涙を流す中で彼の思いを受け止め、波が荒れる海面をただ見つめ続けます。物語は、親子の愛情と運命の皮肉が交錯し、悲劇的に幕を閉じるのです。

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