牛疫

牛疫（ぎゅうえき）

牛疫は、偶蹄類に影響を与える感染症で、その病原体は牛疫ウイルスに分類されます。このウイルスはパラミクソウイルス科に属し、一本鎖のマイナスRNAウイルスであり、その大きさは約150nmです。牛、スイギュウ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカ、イノシシなどの家畜に感染し、特に牛と水牛が最も感受性が高いことが知られています。

感染と伝播

牛疫は、感染した動物の排泄物や飛沫に接触することによって広がります。感受性のある動物の中でも、品種や種によって感受性に差があります。日本では歴史的に、1894年に朝鮮半島から持ち込まれた牛によって初めて発生し、これが契機で港湾検疫が実施されるようになりました。

歴史的影響

牛疫は古くから知られており、約4000年前のエジプトの文書や旧約聖書にもその記述を見ることができます。18世紀のヨーロッパでは、この感染症によって推定2億頭の牛が死亡し、社会に大きな影響を与えました。具体的には、ローマ帝国の東西分裂を引き起こす要因の一つともなり、また18世紀の流行は植民地主義の進展に寄与しました。この時期、獣医職や獣医学の専門教育が発展するきっかけにもなっています。

1922年にはベルギーで牛疫が発生し、各国における家畜伝染病対策体制の確立を促進しました。この出来事は、国際獣医学会議や国際獣疫事務局（WOAH）の設立を後押ししました。2001年にケニアで発生が確認されて以降、牛疫の発生は確認されていません。

牛疫の撲滅

国際連合食糧農業機関（FAO）は2010年までに牛疫を世界から撲滅する計画を策定し、数年にわたる努力の結果、2011年に撲滅宣言がなされました。 この宣言は感染症に関して、1980年の天然痘に次ぐ二例目であり、ヒト以外の動物においては初の成功事例となります。

症状と診断

牛疫に感染した動物は、潜伏期の後に41度程度の高熱や食欲減退を示し、鼻汁、口腔内の出血や潰瘍、さらには下痢が発生することがあります。その後脱水状態に陥り、起立不能に至ることもしばしばです。発熱から6日から12日後に死亡率が高く、3週になるまで生存すると回復の可能性が高くなります。

診断には兎免疫血清を使用したCF反応や寒天ゲル拡散法、ELISAなどの方法が用いられますが、効果的な治療法は現在のところ発見されていません。

予防策

牛疫の予防には弱毒生ワクチンが使用されていましたが、根絶計画が進められる中で、2002年末からはワクチンの接種が中止されています。日本では、牛疫ウイルスが保存されている環境として農研機構の動物衛生研究部門があり、緊急備蓄用の生ワクチンが保管されています。

牛疫は歴史的にも人間社会に大きな影響を与えた感染症であり、現在は効率的な撲滅が達成されたものの、その教訓は今後の家畜伝染病管理において重要な役割を果たすことでしょう。

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