牧神の午後 (バレエ)

『牧神の午後』の概要

『牧神の午後』（ぼくしんのごご、仏: L'Après-midi d'un faune）は、クロード・ドビュッシーの名曲『牧神の午後への前奏曲』（1894年）を基に制作されたバレエ作品です。このバレエは、ロシア・バレエ団、つまりバレエ・リュスによるもので、初演は1912年にパリで行われました。作品の美術や衣装はレオン・バクストが手掛け、伝説的なダンサーのヴァーツラフ・ニジンスキーが初めて振付を担当し、主演も務めました。

成り立ちと背景

このバレエの筋書きは、ドビュッシーの音楽にインスパイアを与えた詩人ステファヌ・マラルメの詩『半獣神の午後』に基づいています。しかし、ニジンスキーによる振付は、従来の古典的なバレエの型を完全に否定するものであり、モダンダンスの先駆けとも言われています。作品は、露骨な性的表現を含み、大きな議論を呼び起こしました。

バレエ・リュスの主催者セルゲイ・ディアギレフは、当時の振付監督ミハイル・フォーキンの限界を感じ、新たにニジンスキーを振付師として起用することを決定しました。1910年の夏ごろ、ディアギレフがニジンスキーにドビュッシーの音楽を元にしたバレエの構想を伝え、チームは活動を始めました。約2ヶ月間の準備を経て、ニジンスキーは作品の振付を完成させたものの、当時は全ての作品がフォーキンの振付によるものであったため、ディアギレフは内密に作業を進めざるを得ませんでした。

初演の経緯

『牧神の午後』は、1912年5月29日にパリ・シャトレ座で行われる第7回セゾン・リュスの中で公式初演を迎えました。ニジンスキーが牧神役を演じ、重要な役割であるニンフの第7のニンフは新人ダンサーのリディヤ・ネリドヴァが踊りました。この際、事前に公開リハーサルが行われたものの、観客はその革新性に驚愕し、誤解や批判も多く寄せられました。特に、最後のシーンでは牧神が自慰行為を行う動作があり、多くの観客にとって衝撃的なものでした。

初演後の反響は極めて複雑でした。大部分の観客は戸惑いながらも、その後の新聞には意外にも好意的なレビューも見受けられました。しかし、著名な批評家による厳しい非難もあり、ディアギレフは他の称賛の声と共にこれに対抗しました。この結果、『牧神の午後』はパリでの注目を集め、以後の公演は完売になるほどの人気を博しました。

上演史と影響

その後、『牧神の午後』は数回の上演を経て、モダン・バレエの基本作品としての地位を確立しました。ディアギレフが亡くなった後も、この作品はバレエ・リュスのレパートリーとして残り、多くの著名なダンサーによって踊り継がれました。戦後まもなく、ニジンスキーの振付が再現される努力がなされ、多くのバレエ団が『牧神の午後』を演じるようになりました。

現在、多様なバージョンが存在し、ニンフが一人だけのデュエット版や牧神一人のソロ版なども上演されています。『牧神の午後』は今でも多くの人に親しまれ、バレエの歴史において重要な一作品として評価されています。

もう一度検索