レオン・バクスト
レオン・サモイロヴィッチ・バクスト（Leon Samoilovitch Bakst, 1866年2月8日 - 1924年12月28日）は、ロシア帝国（現在のベラルーシ）出身の画家、イラストレーター、舞台美術家、そして衣装デザイナーとして、その才能を発揮しました。彼の作品は、特にセルゲイ・ディアギレフが主宰したバレエ・リュスでの舞台美術で知られ、『火の鳥』、『牧神の午後』、『ダフニスとクロエ』など、数々の名作の舞台を彩りました。
バクストは、白ロシア（現在のベラルーシ）のグロドノで、中流のユダヤ人家庭に生まれました。後に家族でサンクトペテルブルクに移り、ギムナジウムを卒業。1883年から1887年まで、サンクトペテルブルク帝室美術院で学びました。この間、彼は生活費を稼ぐために、マッチのラベルデザインや本の装丁の仕事もしていました。
当初、彼は母方の祖父の姓であるレフ・ローゼンベルク（Lev Rosenberg）を名乗っていましたが、1889年の最初の展覧会で、母方の祖母の姓であるバクスター（Baxter）からバクストを名乗るようになりました。1890年には、アレクサンドル・ブノアと出会い、彼の紹介で芸術家グループ「芸術世界」の一員となりました。このグループには、セルゲイ・ディアギレフもいました。
1891年からは、ヨーロッパや北アフリカを旅行し、1893年から1896年にはパリのジュリアン画塾で東洋趣味の画家ジャン＝レオン・ジェロームに師事しました。また、フィンランドの風景画家アルベルト・エデルフェルトにも影響を受けました。
1896年にサンクトペテルブルクに戻ると、肖像画家、装飾画家として活躍し、1898年に創刊された雑誌『芸術世界』では、表紙絵や挿絵、肖像画を手がけ、その名声を確立しました。1904年の『芸術世界』廃刊後は、『アポロン』や『金羊毛』などの雑誌に作品を発表しました。
1900年代初頭には、サンクトペテルブルクのエルミタージュ劇場、アレクサンドリンスキー劇場、マリインスキー劇場で、エウリピデスの『イッポリトゥス』、ソポクレスの『コロノスのオイディプス』、『アンティゴネ』などの舞台装置を担当しました。1906年には、パリのグラン・パレで開催されたロシア美術展で、バクストの装飾が好評を博しました。帰国後には私塾を開き、生徒の中にはバレエダンサーのニジンスキーや画家マルク・シャガールもいました。
1909年にディアギレフがパリで旗揚げしたバレエ団「バレエ・リュス」では、1911年からバクストの舞台装置が、その世界的な評判を支える重要な要素となりました。しかし、バクストはバレエ・リュス以外の舞台装置も手がけ、ディアギレフと疎遠になった時期もありました。例えば、バレエ・リュスを離れたバレリーナ、イダ・ルビンシュタインのために、1911年の『聖セバスティアンの殉教』、1912年の『サロメ』、1913年の『ラ・ピサネッラ』などの舞台装置を制作しました。
1912年、ユダヤ人であったためサンクトペテルブルクを離れ、パリに定住しました。1913年の夏にはロンドンで個展を開催し、この頃からパリでファッションにも関わるようになりました。
1924年、58歳でパリ郊外のリュエイユ＝マルメゾンで病没しました。病名は明らかにされていません。バクストはパリのバチニョル墓地に埋葬されました。彼は1904年に結婚しましたが、夫婦関係は決して平坦ではありませんでした。
バクストの舞台美術家としての最大の功績は、バレエ・リュスの数々のバレエ作品にあります。彼のデザインは、その作品の舞台設定を際立たせ、観客を魅了しました。バクストは、エジプトを舞台にした『クレオパトラ』、アラビアを舞台にした『シェヘラザード』、インドを舞台にした『青神』、ギリシャを舞台にした『牧神の午後』と『ダフニスとクロエ』など、様々な文化圏を舞台にした作品の舞台装置を手がけました。
以下に、バクストが舞台装置を担当したバレエ・リュスの代表的な作品を記します。
1909年5月19日 - パリ、シャトレ座、『饗宴』
1909年6月2日 - パリ、シャトレ座、『クレオパトラ』
1910年5月10日 - ベルリン、ヴェステン劇場、『謝肉祭』
1910年6月4日 - パリ、オペラ座、『シェエラザード』
1910年6月25日 - オペラ座、『火の鳥』
1911年4月19日 - モンテカルロ歌劇場、『薔薇の精』
1911年4月26日 - モンテカルロ歌劇場、『ナルシス』
1912年5月13日 - パリ、シャトレ座、アーン作曲『青神』
1912年5月20日 - パリ、シャトレ座、バラキレフ作曲『タマーラ』
1912年5月29日 - パリ、シャトレ座、『牧神の午後』
1912年6月8日 - パリ、シャトレ座、『ダフニスとクロエ』
1913年5月15日 - パリ、シャンゼリゼ劇場、『遊戯』
1914年4月16日 - モンテカルロ歌劇場、『蝶々』
1914年5月17日 - オペラ座、R.シュトラウス『ヨゼフ物語』
1917年4月12日 - ローマ、コンスタンツィ劇場、『上機嫌な婦人たち』
1921年11月2日 - ロンドン、アルハンブラ劇場、『眠れる森の美女』
1928年7月16日 - ロンドン、ヒズ・マジェスティ劇場、『物乞う神々』（1912年の『ダフニスとクロエ』の装置を再利用）
バクストの作品は、その色彩の鮮やかさ、細部の緻密さ、そして東洋的なエキゾチックな要素が特徴です。彼の舞台美術は、単なる背景ではなく、作品の世界観を深く表現する重要な要素として、バレエ・リュスの成功に大きく貢献しました。
藤野幸雄『春の祭典 - ロシア・バレー団の人々』晶文社、1982年。ISBN 978-4-7949-5650-7。
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生涯
バクストは、白ロシア（現在のベラルーシ）のグロドノで、中流のユダヤ人家庭に生まれました。後に家族でサンクトペテルブルクに移り、ギムナジウムを卒業。1883年から1887年まで、サンクトペテルブルク帝室美術院で学びました。この間、彼は生活費を稼ぐために、マッチのラベルデザインや本の装丁の仕事もしていました。
当初、彼は母方の祖父の姓であるレフ・ローゼンベルク（Lev Rosenberg）を名乗っていましたが、1889年の最初の展覧会で、母方の祖母の姓であるバクスター（Baxter）からバクストを名乗るようになりました。1890年には、アレクサンドル・ブノアと出会い、彼の紹介で芸術家グループ「芸術世界」の一員となりました。このグループには、セルゲイ・ディアギレフもいました。
1891年からは、ヨーロッパや北アフリカを旅行し、1893年から1896年にはパリのジュリアン画塾で東洋趣味の画家ジャン＝レオン・ジェロームに師事しました。また、フィンランドの風景画家アルベルト・エデルフェルトにも影響を受けました。
1896年にサンクトペテルブルクに戻ると、肖像画家、装飾画家として活躍し、1898年に創刊された雑誌『芸術世界』では、表紙絵や挿絵、肖像画を手がけ、その名声を確立しました。1904年の『芸術世界』廃刊後は、『アポロン』や『金羊毛』などの雑誌に作品を発表しました。
1900年代初頭には、サンクトペテルブルクのエルミタージュ劇場、アレクサンドリンスキー劇場、マリインスキー劇場で、エウリピデスの『イッポリトゥス』、ソポクレスの『コロノスのオイディプス』、『アンティゴネ』などの舞台装置を担当しました。1906年には、パリのグラン・パレで開催されたロシア美術展で、バクストの装飾が好評を博しました。帰国後には私塾を開き、生徒の中にはバレエダンサーのニジンスキーや画家マルク・シャガールもいました。
1909年にディアギレフがパリで旗揚げしたバレエ団「バレエ・リュス」では、1911年からバクストの舞台装置が、その世界的な評判を支える重要な要素となりました。しかし、バクストはバレエ・リュス以外の舞台装置も手がけ、ディアギレフと疎遠になった時期もありました。例えば、バレエ・リュスを離れたバレリーナ、イダ・ルビンシュタインのために、1911年の『聖セバスティアンの殉教』、1912年の『サロメ』、1913年の『ラ・ピサネッラ』などの舞台装置を制作しました。
1912年、ユダヤ人であったためサンクトペテルブルクを離れ、パリに定住しました。1913年の夏にはロンドンで個展を開催し、この頃からパリでファッションにも関わるようになりました。
1924年、58歳でパリ郊外のリュエイユ＝マルメゾンで病没しました。病名は明らかにされていません。バクストはパリのバチニョル墓地に埋葬されました。彼は1904年に結婚しましたが、夫婦関係は決して平坦ではありませんでした。
バレエ・リュスの舞台装置
バクストの舞台美術家としての最大の功績は、バレエ・リュスの数々のバレエ作品にあります。彼のデザインは、その作品の舞台設定を際立たせ、観客を魅了しました。バクストは、エジプトを舞台にした『クレオパトラ』、アラビアを舞台にした『シェヘラザード』、インドを舞台にした『青神』、ギリシャを舞台にした『牧神の午後』と『ダフニスとクロエ』など、様々な文化圏を舞台にした作品の舞台装置を手がけました。
以下に、バクストが舞台装置を担当したバレエ・リュスの代表的な作品を記します。
1909年5月19日 - パリ、シャトレ座、『饗宴』
1909年6月2日 - パリ、シャトレ座、『クレオパトラ』
1910年5月10日 - ベルリン、ヴェステン劇場、『謝肉祭』
1910年6月4日 - パリ、オペラ座、『シェエラザード』
1910年6月25日 - オペラ座、『火の鳥』
1911年4月19日 - モンテカルロ歌劇場、『薔薇の精』
1911年4月26日 - モンテカルロ歌劇場、『ナルシス』
1912年5月13日 - パリ、シャトレ座、アーン作曲『青神』
1912年5月20日 - パリ、シャトレ座、バラキレフ作曲『タマーラ』
1912年5月29日 - パリ、シャトレ座、『牧神の午後』
1912年6月8日 - パリ、シャトレ座、『ダフニスとクロエ』
1913年5月15日 - パリ、シャンゼリゼ劇場、『遊戯』
1914年4月16日 - モンテカルロ歌劇場、『蝶々』
1914年5月17日 - オペラ座、R.シュトラウス『ヨゼフ物語』
1917年4月12日 - ローマ、コンスタンツィ劇場、『上機嫌な婦人たち』
1921年11月2日 - ロンドン、アルハンブラ劇場、『眠れる森の美女』
1928年7月16日 - ロンドン、ヒズ・マジェスティ劇場、『物乞う神々』（1912年の『ダフニスとクロエ』の装置を再利用）
バクストの作品は、その色彩の鮮やかさ、細部の緻密さ、そして東洋的なエキゾチックな要素が特徴です。彼の舞台美術は、単なる背景ではなく、作品の世界観を深く表現する重要な要素として、バレエ・リュスの成功に大きく貢献しました。
参考文献
藤野幸雄『春の祭典 - ロシア・バレー団の人々』晶文社、1982年。ISBN 978-4-7949-5650-7。
外部リンク
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