牧野成貞

牧野成貞：綱吉を支えた稀代の側用人

牧野成貞は、江戸時代前期を代表する譜代大名の一人です。上野館林藩の家老から、徳川綱吉の側用人、そして下総関宿藩主へと上り詰めた波乱に満ちた生涯は、権力闘争と綱吉の治世を理解する上で欠かせないものです。

生い立ちと綱吉との出会い

寛永11年(1635年)、旗本の牧野儀成の次男として生まれた成貞。父は越後長岡藩主・牧野忠成の弟という、名門の出でした。慶安2年(1649年)には3代将軍・徳川家光に初御目見を果たし、その後、家光の庶子であった徳川綱吉の近習となります。綱吉が館林藩主となると、奏者番として仕え、その信頼を着実に築き上げていきました。

出世の階段と側用人への抜擢

綱吉の館林藩在任中、成貞は家老に抜擢され、3000石を領しました。綱吉が将軍後継者として江戸に戻ると、成貞も側近としてその地位を盤石なものにしていきます。天和元年(1681年)、成貞は「御側御用人」に任じられます。これは江戸幕府における初めての側用人という役職であり、成貞は綱吉政権の初期を支える中心的役割を担うことになります。

関宿藩主と権力の中枢

天和3年(1683年)、成貞は下総関宿藩に移封され、5万3000石を領する大名となります。官位も従四位下・備後守・侍従に昇り、権力の中枢へと近づいていきます。大老・堀田正俊の暗殺後には、将軍と老中の仲介役として、側用人の影響力はますます大きくなり、成貞はその中心人物として活躍しました。元禄元年(1688年)には、7万3000石に加増されました。

晩年と苦悩

しかし、成貞の晩年は決して平穏なものではありませんでした。妻や娘が綱吉のお手つきになったという説や、綱吉の寵愛が柳沢吉保に移り、その苦悩を深めたという説も伝わっています。「牧野家は自分一代限り」という発言からも、その複雑な心境が窺えます。元禄6年(1693年)に隠居を願い出て、元禄8年(1695年)には養子の成春に家督を譲りました。正徳2年(1712年)に79歳で亡くなっています。

複雑な人間関係と歴史的評価

成貞の生涯は、綱吉という強力な後援者との関係、そして複雑な人間関係によって彩られています。妻阿久里は綱吉の生母・桂昌院の元侍女であり、その縁故で成貞と結婚したと言われています。また、成貞には養子として成春を迎える一方、実子の貞通も存在しました。こうした複雑な人間関係は、成貞の出世と晩年の苦悩を理解する上で重要な要素となっています。

成貞を取り巻く文化

成貞は囲碁をたしなみ、本因坊道悦に入門するなど、文化にも造詣が深かったとされています。また、三井高利の支援など、経済活動にも関与していたことが知られています。こうした側面も、成貞という人物像をより立体的に理解する上で役立ちます。

まとめ

牧野成貞は、綱吉という時代の寵児を支えた稀代の側用人でした。その生涯は、出世の華やかさと晩年の苦悩、そして複雑な人間関係が絡み合い、江戸時代の権力構造や社会風俗を理解する上で貴重な資料となっています。彼の足跡は、単なる歴史上の出来事としてではなく、一人の人間としての生き様として、現代にまで響き渡るものと言えるでしょう。多くの文献や創作作品に登場する成貞を、改めて見つめ直すことで、江戸時代の深遠な世界の一端を垣間見ることができるでしょう。

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