独立音楽協会
独立音楽協会（Société musicale indépendante、略称SMI）は、1909年にフランスで設立された音楽団体です。この協会は、作曲家モーリス・ラヴェルを中心とし、彼の恩師であるガブリエル・フォーレ、そして同門のシャルル・ケクランやフローラン・シュミットらによって創設されました。その目的は、当時のフランス音楽界において新しい息吹をもたらし、現代的な音楽作品の創造と発表を積極的に支援することにありました。
SMIの誕生は、当時のフランス音楽界における支配的な勢力であった国民音楽協会との対立構造に深く根差しています。国民音楽協会は、設立当初こそ「フランス音楽の創造」を掲げ、その推進に大きな役割を果たしましたが、1890年に指導者であったセザール・フランクが死去すると、協会内の主導権がヴァンサン・ダンディとその支持者たちに移りました。ダンディは敬虔なカトリックであり、スコラ・カントルムを率いるなど保守的な傾向が強く、国民音楽協会の運営においてもその影響力が強まります。
このような状況下で、協会は次第に閉鎖的となり、新しい音楽の潮流、特にラヴェルをはじめとする若手・新世代の作曲家の革新的な作品に対して冷淡な態度を取るようになりました。実際、ラヴェルの作品は正当に評価されず、またケクラン、モーリス・ドラージュ、あるいはイギリスのレイフ・ヴォーン・ウィリアムズといった作曲家たちの作品は、国民音楽協会の演奏会プログラムから外される傾向が強まります。こうした保守化と停滞に直面したラヴェルは、国民音楽協会からの退会を決意し、自ら新しい音楽の活動の場として独立音楽協会の設立を発起することになります。
独立音楽協会は、「現代的な音楽の創造を支持すること」を旗印に掲げました。彼らは、伝統的な形式や特定のジャンル、あるいは特定の作曲様式といった従来の制限にとらわれることなく、極めて自由かつ多様なプログラムを企画・実施しました。これは、権威化し、保守的な傾向が強まっていた国民音楽協会との明確な対立軸を打ち立てるものでした。SMIは、新しい才能の発掘や、既存の枠にとどまらない音楽の紹介を通じて、フランスの音楽文化に革新をもたらすことを目指したのです。
協会の活動は、設立翌年の1910年4月20日、パリのサル・ガヴォーで行われたオープニングコンサートで幕を開けました。この記念すべき演奏会では、ラヴェルのピアノ連弾曲『マ・メール・ロワ』が初演されるなど、協会の掲げる現代音楽支援の理念を体現するプログラムが組まれました。
独立音楽協会は、その執行委員の顔ぶれにおいても特筆すべき多様性を示しました。初代総裁には、ラヴェルの師でありフランス楽壇の重鎮であったガブリエル・フォーレが就任し、協会の権威を高めました。
その他の役員には、創設メンバーであるラヴェル、ケクラン、シュミットに加え、ルイ・オベール、ナディア・ブーランジェ、アルテュール・オネゲル、ジャック・イベール、アルベール・ルーセルといったフランスを代表する作曲家や音楽家たちが名を連ねました。さらに、アルノルト・シェーンベルク、マヌエル・デ・ファリャ、バルトーク・ベーラ、イーゴリ・ストラヴィンスキーといった、当時の世界の現代音楽を牽引する海外の著名な作曲家たちが役員に加わっていたことは、SMIが単なる国内の団体にとどまらず、国際的な視野を持って現代音楽の最前線に立とうとしていたことを明確に示しています。
独立音楽協会は、多くの歴史的に重要な現代音楽作品の初演の場となりました。特に、ラヴェルの主要な作品群がSMIの演奏会で初演されています。代表的なものとしては、『マ・メール・ロワ』をはじめ、『高雅で感傷的なワルツ』、『…風に』と題された小品群、『ステファヌ・マラルメの3つの詩』、そして第一次世界大戦後に作曲された組曲『クープランの墓』などがあります。
また、ラヴェルの『ステファヌ・マラルメの3つの詩』と同時に演奏されたイーゴリ・ストラヴィンスキーの『3つの日本の抒情詩』も、SMIによって初演された注目すべき作品です。こうした初演を通じて、SMIは20世紀初頭の音楽語法における革新を聴衆に紹介し、その普及に貢献しました。
独立音楽協会は第一次世界大戦後も活動を継続しました。しかし、長期にわたる活動の中で、協会内部における意見の対立が生じたり、対立関係にあった国民音楽協会側にも組織や運営の改革が進んだりしたこともあり、SMIの活動は次第に勢いを失っていきました。最終的に、協会は171回の演奏会を実施した後、1935年にその活動を完全に停止しました。独立音楽協会が果たしていた新しい音楽の発表・紹介という役割は、その後トリトン（Triton）や「ラ・スピラル」といった後続の団体へと引き継がれていきました。
SMIは、短い活動期間ではありましたが、フランス楽壇におけるアカデミズムや保守的な潮流に対抗し、革新的で多様な現代音楽を積極的に紹介することで、20世紀初頭の音楽史において重要な足跡を残した団体と言えます。
設立の背景
SMIの誕生は、当時のフランス音楽界における支配的な勢力であった国民音楽協会との対立構造に深く根差しています。国民音楽協会は、設立当初こそ「フランス音楽の創造」を掲げ、その推進に大きな役割を果たしましたが、1890年に指導者であったセザール・フランクが死去すると、協会内の主導権がヴァンサン・ダンディとその支持者たちに移りました。ダンディは敬虔なカトリックであり、スコラ・カントルムを率いるなど保守的な傾向が強く、国民音楽協会の運営においてもその影響力が強まります。
このような状況下で、協会は次第に閉鎖的となり、新しい音楽の潮流、特にラヴェルをはじめとする若手・新世代の作曲家の革新的な作品に対して冷淡な態度を取るようになりました。実際、ラヴェルの作品は正当に評価されず、またケクラン、モーリス・ドラージュ、あるいはイギリスのレイフ・ヴォーン・ウィリアムズといった作曲家たちの作品は、国民音楽協会の演奏会プログラムから外される傾向が強まります。こうした保守化と停滞に直面したラヴェルは、国民音楽協会からの退会を決意し、自ら新しい音楽の活動の場として独立音楽協会の設立を発起することになります。
理念と活動
独立音楽協会は、「現代的な音楽の創造を支持すること」を旗印に掲げました。彼らは、伝統的な形式や特定のジャンル、あるいは特定の作曲様式といった従来の制限にとらわれることなく、極めて自由かつ多様なプログラムを企画・実施しました。これは、権威化し、保守的な傾向が強まっていた国民音楽協会との明確な対立軸を打ち立てるものでした。SMIは、新しい才能の発掘や、既存の枠にとどまらない音楽の紹介を通じて、フランスの音楽文化に革新をもたらすことを目指したのです。
協会の活動は、設立翌年の1910年4月20日、パリのサル・ガヴォーで行われたオープニングコンサートで幕を開けました。この記念すべき演奏会では、ラヴェルのピアノ連弾曲『マ・メール・ロワ』が初演されるなど、協会の掲げる現代音楽支援の理念を体現するプログラムが組まれました。
国際的な執行委員
独立音楽協会は、その執行委員の顔ぶれにおいても特筆すべき多様性を示しました。初代総裁には、ラヴェルの師でありフランス楽壇の重鎮であったガブリエル・フォーレが就任し、協会の権威を高めました。
その他の役員には、創設メンバーであるラヴェル、ケクラン、シュミットに加え、ルイ・オベール、ナディア・ブーランジェ、アルテュール・オネゲル、ジャック・イベール、アルベール・ルーセルといったフランスを代表する作曲家や音楽家たちが名を連ねました。さらに、アルノルト・シェーンベルク、マヌエル・デ・ファリャ、バルトーク・ベーラ、イーゴリ・ストラヴィンスキーといった、当時の世界の現代音楽を牽引する海外の著名な作曲家たちが役員に加わっていたことは、SMIが単なる国内の団体にとどまらず、国際的な視野を持って現代音楽の最前線に立とうとしていたことを明確に示しています。
重要な初演作品
独立音楽協会は、多くの歴史的に重要な現代音楽作品の初演の場となりました。特に、ラヴェルの主要な作品群がSMIの演奏会で初演されています。代表的なものとしては、『マ・メール・ロワ』をはじめ、『高雅で感傷的なワルツ』、『…風に』と題された小品群、『ステファヌ・マラルメの3つの詩』、そして第一次世界大戦後に作曲された組曲『クープランの墓』などがあります。
また、ラヴェルの『ステファヌ・マラルメの3つの詩』と同時に演奏されたイーゴリ・ストラヴィンスキーの『3つの日本の抒情詩』も、SMIによって初演された注目すべき作品です。こうした初演を通じて、SMIは20世紀初頭の音楽語法における革新を聴衆に紹介し、その普及に貢献しました。
活動の終焉
独立音楽協会は第一次世界大戦後も活動を継続しました。しかし、長期にわたる活動の中で、協会内部における意見の対立が生じたり、対立関係にあった国民音楽協会側にも組織や運営の改革が進んだりしたこともあり、SMIの活動は次第に勢いを失っていきました。最終的に、協会は171回の演奏会を実施した後、1935年にその活動を完全に停止しました。独立音楽協会が果たしていた新しい音楽の発表・紹介という役割は、その後トリトン（Triton）や「ラ・スピラル」といった後続の団体へと引き継がれていきました。
SMIは、短い活動期間ではありましたが、フランス楽壇におけるアカデミズムや保守的な潮流に対抗し、革新的で多様な現代音楽を積極的に紹介することで、20世紀初頭の音楽史において重要な足跡を残した団体と言えます。
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