猿之助四十八撰

三代猿之助四十八撰（さんだい えんのすけ しじゅうはっせん）

「三代猿之助四十八撰」は、歌舞伎俳優である三代目市川猿之助（後の市川猿翁）が、2010年（平成22年）に自らの舞台芸術の集大成として選び定めた、澤瀉屋・市川猿之助家に伝わるお家芸のリストです。

これは、従前より澤瀉屋に伝わる「猿之助十八番」を見直し、三代目が特に深く関わり、その芸術性を高めたとされる48の演目を選び出したものです。これらの演目は、三代目の舞台活動の軌跡を示すものとして、以下の四つのカテゴリーに分類されています。

分類と特徴

「三代猿之助四十八撰」は、三代目市川猿之助が特に力を入れた、あるいは新たな可能性を開拓した分野ごとに、それぞれ特有の名称を持つ四つの項目に分けられています。それぞれの項目には、三代目猿之助の舞台と切り離せない、象徴的な言葉が冠されています。

1. 復活通し狂言（18種）
長らく上演される機会が少なかったり、途中の場面が欠けていたりした古典の通し狂言を、綿密な調査と大胆な構想力によって復活・完結させた作品群です。スケールの大きな物語を現代に蘇らせ、観客を魅了しました。

2. 猿之助新演出（10種）
古典歌舞伎の演目に、三代目猿之助独自の解釈や革新的な演出を加え、作品の新たな魅力を引き出した演目です。伝統的な枠組みの中で、現代的な感覚を取り入れた表現を追求しました。

3. 華果（かか）（10種）
三代目猿之助の俳名である「華果」を冠したこの項目には、彼が特に優れた技量を発揮し、その独創的な舞踊表現で評価を得た舞踊劇が選ばれています。躍動感あふれる身体表現や、多様な役柄の演じ分けが見どころです。

4. 新作・スーパー歌舞伎（10種）
伝統的な歌舞伎の様式にとらわれず、ワイヤーアクションや宙乗りといった大胆な演出、最新の舞台技術を駆使して作り上げられた「スーパー歌舞伎」や、従来の作品に依拠しない全く新しい物語を展開する「新作歌舞伎」が含まれます。これらの作品は、歌舞伎の可能性を大きく広げました。

撰定された演目

「三代猿之助四十八撰」に選ばれた全48演目は以下の通りです。

復活通し狂言十八番

1. 『金門五山桐』（きんもん ごさんの きり）
2. 『金幣猿島郡』（きんのざい さるしま だいり）
3. 『加賀見山再岩藤』（かがみやま ごにちの いわふじ） 骨寄せの岩藤
4. 『南総里見八犬伝』（なんそう さとみ はっけんでん）
5. 『小笠原諸礼忠孝』（おがさわら しょれいの おくのて） 小笠原騒動
6. 『雙生隅田川』（ふたご すみだがわ）
7. 『君臣船浪宇和島』（きみはふね なみの うわじま） 宇和島騒動
8. 『慙紅葉汗顔見勢』（はじもみじ あせの かおみせ） 伊達の十役
9. 『二十四時忠臣蔵』（じゅうにとき ちゅうしんぐら）
10. 『獨道五十三驛』（ひとりたび ごじゅうさんつぎ）
11. 『天竺徳兵衛新噺』（てんじくとくべい いまよう ばなし）
12. 『當世流小栗判官』（とうりゅう おぐり はんがん）
13. 『御贔屓繋馬』（ごひいき つなぎうま）
14. 『菊宴月白浪』（きくのえん つきの しらなみ）
15. 『重重人重小町櫻』（じゅうにひとえ こまち ざくら）
16. 『四天王楓江戸粧』（してんのう もみじの えどぐま）
17. 『四谷怪談忠臣蔵』（よつやかいだん ちゅうしんぐら）
18. 『競伊勢物語』（はでくらべ いせものがたり）

猿之助新演出十集

19. 『太平記忠臣講釈』（たいへいき ちゅうしん こうしゃく）
20. 『傾城反魂香』（けいせい はんごんこう）
21. 『新舞台水昇鯉滝』（しんぶたい みずや こいたき） 鯉つかみ
22. 『奥州安達原』（おうしゅう あだちがはら） 二・三段目
23. 『義経千本桜』（よしつね せんぼんざくら） 忠信篇
24. 『黒手組曲輪達引』（くろてぐみ くるわの たてひき） 黒手組助六
25. 『敵討天下茶屋聚』（かたきうち てんがぢゃや むら）
26. 『於染久松色読販』（おそめ ひさまつ うきなの よみうり） お染の七役
27. 『摂州合邦辻』（せっしゅう がっぽうがつじ）
28. 『国性爺合戦』（こくせんや かっせん）

華果十曲

29. 『橋弁慶』（はし べんけい）
30. 『奴道成寺』（やっこ どうじょうじ）
31. 『望月』（もちづき）
32. 『景事杉酒屋』（けいごと すぎざかや）
33. 『太閤三番叟』（たいこう さんばそう）
34. 『流星』（りゅうせい）
35. 『鬼揃紅葉狩』（おにぞろい もみじがり）
36. 『大江山酒呑童子』（おおえやま しゅてんどうじ）
37. 『日本振袖始』（にほん ふりそで はじめ）
38. 『華果西遊記』（かか さいゆうき）

新作・スーパー歌舞伎十番

39. 『ヤマトタケル』
40. 『リュウオー』 龍王
41. 『オグリ』 小栗判官
42. 『八犬伝』 南総里見八犬伝
43. 『カグヤ』 新竹取物語
44. 『オオクニヌシ』
45. 『新・三国志』
46. 『新・三国志 II』 孔明篇
47. 『新・三国志 III』 完結編
48. 『新・水滸伝』

この「三代猿之助四十八撰」は、三代目市川猿之助が歌舞伎界にもたらした革新的な取り組みや、伝統の継承と発展に対する貢献を象徴する一覧であり、澤瀉屋の芸の核となる重要な演目群として位置づけられています。これは単なる演目リストに留まらず、三代目の舞台哲学や目指した世界観を示す、まさに「芸の財産」ともいえるものです。

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