玉兎 (舞踊)

『玉兎』（たまうさぎ）は、歌舞伎および日本舞踊の演目の一つです。月に住む兎が臼と杵を使って団子を搗く様子や、有名な『かちかち山』の狸退治を踊りで表現します。

初演と背景

文政3年（1820年）9月、江戸の中村座で『一谷嫩軍記』の二番目大切として、七変化舞踊『月雪花名残文台』（つきゆきはなごりのぶんだい）の一つとして、三代目坂東三津五郎によって初演されました。作詞は二代目桜田治助、作曲は清澤満吉が担当しました。

七変化の内容は以下の通り、月・雪・花の構成で演じられました。

浪枕月浅妻（なみまくらつきのあさづま）…長唄
玉兎月影勝（たまうさぎつきのかげかつ）…清元節
狂乱雪空解（きょうらんゆきのそらどけ）…長唄と清元の掛合い
猩々雪酔覚（しょうじょうゆきのよいざめ）…長唄
寒行雪姿見（かんぎょうゆきのすがたみ）…長唄
女扇花文箱（おんなおうぎはなのふみばこ）…富本節
恋奴花供待（こいのやっこはなのともまち）…長唄

現在に伝わる『玉兎』は、このうち月の部である「玉兎月影勝」にあたります。ちなみに、「浪枕月浅妻」と「寒行雪姿見」も、それぞれ所作事の『浅妻船』、『まかしょ』として現在も演じられています。

舞台と演出

舞台はススキなどが生い茂る秋の野原で、空には月が輝いています。舞台の中央には臼が置かれ、まず月の兎の精が杵を持って団子を搗く所作を見せます。その後、『かちかち山』の話になり、一人の役者が兎、狸、爺、婆の四役を踊り分けます。さらに、「お月様さへ嫁入りなさる」という鄙びた唄に合わせて踊り、最後は再び臼と杵を出し、杵を振り上げた形で幕を閉じます（振付けによっては異なる幕切れもあります）。

三津五郎が初演した際には、舞台の上から月の作り物が降りてきて、その月の中に三津五郎扮する兎の精が杵を持って現れ、そこから舞台に飛び降りるという華やかな登場を見せました。兎の精の姿は、下がりを付けた褌だけの裸の上に襦袢一枚、頭には鉢巻を巻き、その両端を兎の耳に見立てて角のように立てるというものでした。現在でもこの姿で演じられることがあります。

歌詞にある「月の影勝飛び団子」とは、江戸や大坂で売られていた影勝団子（かげかつだんご）という団子のことで、当時の名物の一つでした。

『月雪花名残文台』は三代目三津五郎が大坂へ行く暇乞いとして上演されたもので、非常に好評を博し、9月9日から10月20日まで長期にわたって演じられました。もし11月に顔見世がなければ、春まで続くほどの人気だったと言われています。

参考文献

黒木勘蔵校訂　『日本名著全集江戸文芸之部第二十八巻　歌謡音曲集』　日本名著全集刊行、1929年会
古井戸秀夫　『舞踊手帖』　駸々堂、1990年
早稲田大学演劇博物館　デジタル・アーカイブ・コレクション※文政3年の『月雪花名残文台』の番付の画像あり。

関連項目

* まかしょ

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